なぜ今年のクリスマスは土日なのだろう。彼氏のいないわたしにとってはなんの特別感もないイベントだ。いや、誰が恋人と過ごす日だと決めたのか。とはいっても高校生にもなればホームパーティすらしないしプレゼントだって昔とは違って現金支給になっていた。これで何か買ってきなさい、の一言と一緒に渡された諭吉をお財布にしまって、渡した後そのまま仕事へでかけた親の後を追うようにわたしもどこか行く宛もなく家を出ることにした。
とりあえずコンビニで飲み物かなんか買っていこう、そう思って入ったコンビニには見知れた顔があって、向こうもわたしに気付いたのか「あ、」と小さく声をもらした後に、いつものあの笑顔をみせた。
「よ〜!偶然」
「栄口、部活帰り?」
「そうそう」
「クリスマスも関係ないんだね、野球部は」
「ないない〜!まあ彼女いるやつはこの後デートらしいけど」
「栄口は?」
「それ聞く?」
ごめんごめん、と笑った後に栄口も苗字は?と聞くのでさっきと全く同じ返事を返してやったら、二人の笑い声が少しだけコンビニに響いて、二人してやべって顔したから思わずまた笑ってしまった。
「部活でお疲れの栄口くんになにかおごってあげよう」
「え、まじ?」
「今日はリッチなのだよ」
「やったー。俺なにもあげれるものないけど」
「いいよいいよ」
「じゃあ、このショートケーキ。二人で食べよ」
スイーツコーナーに残り一つだけになっている二つ入りのショートケーキを指差した。それを手にとって、適当にお茶を買ってレジに並んで、なにか買っている栄口に先に外いるね、と声をかけてコンビニから出るとぴゅうと冷たい風が吹いていた。そういえば今日は寒くなるって天気予報で言ってたっけ。早く帰るつもりだったわたしはわりと薄着で出てきてしまい、少しだけ寒かった。栄口も、さむ!と白い息を吐き出しながらコンビニから出てきたからまたふは、と笑ってしまって栄口になに笑ってんの?と言われてしまった。そんなわたしの頬にぴと、とあったかいものがふいに押し当てられたのと同時にいい匂いがして栄口を見上げるとにこにこしていた。
「肉まん、半分こしよ」
「やった」
「あっちにある公園にでもいく?」
そういってわたしの手元の袋を持ってくれるあたりさすが栄口といったところか。ショートケーキとお茶しか入ってない袋でさえ持ってくれるというのになぜ彼女がいないのか不思議でしょうがない。公園は夕暮れ時のせいか遊んでる子供もおらず人気はまったくなく、今更ながらクリスマスに公園で二人きり、という状況に周りからはカップルに見られてるのかな・・・なんて思ったら急に気恥ずかしくなってきてしまった。
「はい」
「ありがと〜」
肉まんを頬張った後にショートケーキを取り出して二人でいただきますと白いクリームにコンビニのフォークをぶすりと刺す。
「「おいしい〜!!!」」
二人で顔を見合わせてほっぺを抑えればまたどちらとともなくふふふ、と笑い声が漏れた。コンビニのケーキも捨てたもんじゃないねなんて他愛のない話をしながらふと栄口が思い出したように「そういえばどこかいくところだった?」と聞いてきた。
「いや、特には決めてないんだけど服とかみてこようかな〜って出てきた」
「ごめんな、引き止めて!しかも奢ってもらったし・・・」
「気にしないで。クリプレにお小遣い頂いたので」
「お礼といっちゃあれだけど、今から買い物いく?」
「え?」
「荷物持ち、するよ」
爽やかにいう栄口の言葉にへ?と素っ頓狂な声を出してしまい即座にいいよいいよ!と断ると遠慮すんなって!とそそくさと食べたあとのゴミをコンビニの袋に戻して持ち手をきゅっとしばって近くのごみ捨てのところにガコン、と捨ててわたしの手をとった。
「いこっか」
自然と握られた掌がじんわりと暖かくなって、さっきまで寒かったはずなのに今では全身から火が出そうなくらい暑い。見た目とは裏腹に、想像してたよりも大きくてゴツゴツとしたその手に栄口はやっぱり男の子なのだと実感する。
〇
いつも見に行くお店に行くと、そこには普段は男のおの字もないのに今日はカップルで溢れていた。思わず見に行くのをためらったのだけれど、栄口があそこ?って聞くのでそう、と返事をついしてしまった。
「あ〜、苗字こういうの着てるよね」
「シンプルなのが一番好き」
「俺は中学の制服ずっと着てるからな〜」
「大体学ランだもんね」
「ねえ、こういうのは着ないの?」
栄口が指を指した先には普段雑誌で可愛い子が着ているような華奢で可愛い冬用のワンピースだった。本当はわたしだって着れるならこういう服を着てみたい。女の子の憧れだ。でも顔立ち的にどうしても似合わないためいつもシンプルなものばかり無難に選んでいた。「さすがに似合わない」とこたえると試着してみて、と言わんばかりの顔で見てきたため、無理!の一点張りをきめこんだ。
「絶対似合うと思う」
「栄口はお世辞がうまい」
「お世辞じゃないよ、本当に苗字は可愛いし」
「え、」
じわじわと二人して顔真っ赤にして、こんなお店の中でなにいってるんだか栄口はまったく、と思いながら恥ずかしさで栄口を見れなくてくるりと後ろを向いて「欲しいのなかったし、もういいよ」とどきどき鳴る胸を抑えながらいえば後ろを向いてるからどんな顔してるかわからないけど「うん」と返ってきた。店をあとにしたあとスポーツショップを見つけて行きたそうにうずうずしている栄口に気付いて、行く?と聞くといいの?と秒で返ってきて少しだけ気まずい雰囲気もほぐれた感じがして内心ほっとした。あのままだと何喋っていいか分からないままだったから。
「荷物持ちするとかいって逆に付き合わせてごめん」
「わたしはもう見たいとこなかったし全然」
とぼとぼ歩いていると丁度イルミネーションされている大きいクリスマスツリーが歩道に出ていた。
「わー!綺麗!」
「でっかいな〜!」
「ね!」
「あのさ」
「うん?」
「嫌だったら離してね」
そう言って、わたしの右手を栄口の左手で優しく握られた。少しびっくりして栄口のほうを見るとほんのり耳が赤くなっていた。
「さ、さっきも握ったじゃん」
「あれは!・・・勢いというか、その、ごめん」
「別に、嫌じゃなかった、し、今も、嫌じゃない」
お互い歯切れの悪い会話に心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと、思うくらいばくばくしてるのがわかる。嫌じゃない、と返事した時に少しだけきゅっと栄口の握る力が強くなってわたしも思わず力を入れてしまった。
「今日苗字に会った時まじでサンタさんっているんだな〜って思った」
「なんで?」
けらけらと笑うとツリーを見ていた栄口がわたしのほうに向き直して、気恥ずかしそうにわたしを見つめた。ぱちりと目が合った瞬間は本当に時間が止まったんじゃないかと思うくらいに、栄口しか目にうつっていなかった。
「俺、苗字のことが好きなんだ」
彼の言葉に、どこか今日一緒にいて期待していた自分がいたことに嫌でも気付かされて、返事の代わりに今日どきどきしっぱなしだったわたしの心臓のお返しに少し背の高い彼のほっぺたにかかとを持ち上げて唇を軽くくっつければ、面食らったような彼の顔が目に入って思わず笑ってしまった。次に栄口に会う時にはあのワンピースでも着ていかなくちゃいけないことになりそうだな、なんて思いながら握られた手を更にぎゅうと握り返した。
Happy MerryX'mas!