時計にちらりと目をやるともう時計の針は午前4時をさしていた。だめだ、ぜんぜっん寝れない。ため息を吐いてシパシパする目をこすりながらもう日の明るい外にびっくりしつつカーテンをそろりとあけ、再度大きなため息を吐いた。昨日あれから授業には遅刻し怒られるわ、その後もよく集中出来なくて階段からずり落ちるわ、とにかく散々だった。どれもこれも孝介のせいだ!・・・いや、わたしのせいか?友子にはキスされたこともデートに誘われたことも言えずただ行き場のない気持ちを延々と聞いてもらってた気がする。正直あれからあまり記憶がない。

あんなにドキドキしてたデートも今のこの状態じゃどう頑張ってもドキドキしないし、楽しめない。むしろ今日は誰にも会いたくないとさえ考えている、ほんとどうしよう。のそのそと階段を降りて洗面所に向かって少しだけ目の下に出来たクマを誤魔化すようにバシャバシャと水を顔にたたきつけた。・・・なんか目が覚めちゃったな。二階へと戻ってカーテンを静かに開けて窓をカラカラと開けると丁度部活にいくところだったのか孝介がわたしの窓をあける音に気付いてこっちを振り向いた。なんてタイミングが悪いんだ。


「・・・」

「・・・」

「おす」

「・・・お、おす」

「あのさ、昨日の「練習!がんばって!」


昨日、その単語が出ただけで思わず話を遮ったあげく窓をしめて隠れていた。しまった。完全にしまった。こんな態度をとるつもりはなかったけど、体が勝手に動いてしまった。もちろん孝介のことは大好きだ。だけど恋愛対象としてこれっぽっちも見てこなかったわたしにはこの現状をどう受け止めていいのか、もう・・・わからないよ。時計は5時を回っていて、孝介はいつもこんな時間に朝練にいっているのかと初めて知った。いつも近くにいるはずなのに、誰よりも近くにいたはずなのに本当は知らないことだらけだったんだ。




「あ、名前!」

「瞬君!おはよ」

「おはよ〜。・・・なんか顔色悪い?大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!」


あれからわたしは約束の時間まで一睡も出来ずじまいで、コーヒーでなんとか誤魔化して朝を迎えた。瞬君に言われた言葉に内心どきりとしながらも平然を装い「ならよかった」と何も知らず、にこりと笑う瞬君に胸が痛くなった。


「今日は誘っておきながら特になにも考えてないんだけど、どこか行きたいところある?」

「えっと、そうだな〜、わたしも何も考えてないや」

「じゃあ適当にぶらぶらしよーか」

「そうしよっか」


ちょっと街中へ出て服とか色々見た後にひとつの小さな雑貨屋さんへ入った。あ、ここ結構好みのお店かも。


「そういえば」

「ん?」

「いつもこれ付けてるよね」


瞬君はわたしの耳元ついた小さなパールを指先で触って、お気に入り?こういうのがすき?と聞いてきた。


「シンプルなのが好きなんだ」

「そうなんだ」

「それにこれは・・・、」

「これは?」


初めて孝介がわたしにプレゼントしてくれたものだから。

そう言おうと思ったけど、ごくりとつばを飲み込んで「ファーストピアスなんだ」と誤魔化した。別に嘘は言ってないし、いいよね。色々なところを見て回ってなんだかんだもう夕暮れ時になっていたのにびっくりした。孝介以外の男の子とこうして街中ぶらぶらするのはいい意味で新鮮だ。と、いうか彼氏なんだけど・・・。その後も他愛ない話をたくさんしたけれどどれもしっかり脳内には入り込んでこなくて今日は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。瞬くんは優しいから何も聞かずに一緒に過ごしてくれてたのだろうか。

なんだかんだで時刻は9時ぐらいになっていて最終的にはいいよいいよ!と断ったけどこれくらいさせてと、家の前まで送ってもらってしまった。


「瞬君、今日はありがとう」

「こちらこそ」

「じゃ・・・気をつけて帰ってね」

「ん、・・・あのさ」


なに、と返事しようと瞬くんの顔を見上げるとだんだんと近づいて、肩に手を置かれて、わたしはこれから何をされるのか嫌でも予想がついた。嫌でも、なんて彼氏に対していう表現ではないことにハッとしてあと数センチでキスされるところで思わず顔を背けてしまった。


「ご、ごめん!!!!」


そのままわたしは瞬君をおいたまま家の中へ入って玄関にへなへなと腰をおろした。キスされそうになったとき、どうして、どうして、


・・・孝介の顔が出てきたの