あの日以来孝介とは会話もしてないし姿も見かけていない。元々クラスが離れているのもあってか会おうという気がなければそうそう出くわさない。移動教室は友子が選択が一緒のだったから聞いてみたらいつも孝介はギリギリにきて終わったら即座にでてくらしい。わたしに会わないようにしてるのか、と考えたら本当に腹が立ってきた。


「好きだなんていつものジョーダンだよねえ?」

「何の話」

「いや、この前さ・・・」


いつものお昼ご飯、この間孝介とあった出来事を話すと「はぁ?!」とでかい声で友子が騒ぐからクラスのみんながなんだなんだとこっちをチラチラ見てきて、慌てて友子の口を塞いだ。


「ちょっと、声でかい」

「いやー、あんたそれ孝介くん不憫だわ」

「はあ?なんで」

「わかんないの?」

「だって、幼馴染みだよ?実際恋愛対象になるかね」

「それはずっと一緒にいるから気付いてないだけでしょ」


孝介くん、人気あるんだよ。にんまりと笑う彼女に、うそだぁと思わず箸を落としてしまった。ないないない。孝介が人気だなんて。確かに、顔は悪くない方だけど口悪いし、バカだし、すぐ暴力ふるうし、・・・でもそのわりには優しいところがあるのは認めてやってもいい。


「・・・箸、洗ってくる」

「ついでに頭も冷やしてこい」

「・・・友子は孝介の味方かぁ」

「そーいうわけじゃないの」


もやもやとした気持ちのまま外にある水洗いのところに箸を洗いにきたら丁度瞬くんが通って、にこやかにこっちに走り寄ってきた。なんだか犬みたいだ、なんて失礼だけど。


「どうしたの?」

「箸落としちゃって」

「そうだったんだ、意外とドジなんだ」

「たまたま落としただけ!」

「ほんと?」


焦って否定するわたしに、にこにこと笑う瞬くんにさっきまでのもやもやが一気に解消されたきがした。彼氏ってものはすごいな。今迄男の子といえば孝介しか間近で見てこなかったからこんなにも優しいものなのかと箸をふきながら笑い返した。


「明日ヒマ?」

「え、うん」

「デートしにいかない?」

「デ、?!」

「付き合ってからなかなか2人になってないから」


10時に駅でいいよね。その問にコクコクと頷くことしか出来なかったわたしは手の筋肉が緩んで箸をもう1度落としてしまった。初デートだ!そりゃ初めての彼氏だから全てが初めてなんだろうけど、緊張するな〜。彼氏が居る女子は通りで普段からわりとおしゃれをしてくるわけだ。わたしはといえば孝介と中学のときにお揃いで買ったちょっといかしたジャージを上に羽織って中学の時きていたスカートを新調させただけのナンチャッテ高校生だ。そういえば私服でスカートとかほとんどはいたことないな・・・。自分の女子力のなさに落胆するわ。
箸を洗い終え教室に戻ろうとしたら廊下のはしのところによく見覚えのある顔が女の子と並んでいた。そろりと近付くと「付き合ってください!」と控えめな女の子が孝介に告白しているところだった。


「わりぃ、付き合えない」


申し訳なさそうに告げる孝介に女の子は何も言わずお辞儀だけして走っていってしまった。『孝介くん、人気あるんだよ』と言った友子の話に本当だったんだ・・・と首元をぽりぽりかいてる孝介を見てたらくるりとこっちに振りかえって、やばっ、と思った時にはばちりと目があっていた。


「覗き見かよ、悪趣味」

「ちがっ!たまたまそこにいただけですう」

「あっそ」

「・・・今の子可愛かったじゃん」

「そーだな」

「付き合わないの」


そう言葉を放った瞬間今までに見たことないくらいの怒った顔をしてわたしの二の腕あたりをぎゅ、と強く掴んだ。


「いた・・・っ」

「俺はお前とは違う」

「・・・」

「それに、俺は名前が好きって言ったはずだろ」


なのに、そんなこと言うのかよ。今にも消えそうな声で聞こえてきた声にわたしはそこで初めて本当に孝介がわたしのことを好きなのだと痛いくらいにひしひしと痛感した。わたしはなんてバカなんだ。


「こう、すけ」

「ほんとムカつく」


二の腕からするりとわたしの頬に移動された手にびくりと動けなくなってだんだんと近付いてくる孝介の顔にただわたしは立ち尽くしてるだけだった。


「・・・わりい」


その一言だけ言い残して歩いていってしまい、取り残されたわたしの唇には孝介の感触がまだ残っていて、わたしは3度目となる落ちた箸を拾えずに立ち尽くすし呆然ともう目の前から居なくなった孝介のことが頭から離れないでいた。
・・・キス、された。そう頭の中で理解するころにはお昼が終わるチャイムが鳴り響いていた。