「あんた達喧嘩でもしたの?」

「・・・別に」


いつも一緒につるんでる友達の友子に、いつもは孝介のばか話してるのにここ何日かは一切その単語を聞いていないのを不思議に思ったのかわたしのお弁当のたこさんウインナーをひょいっとつまみながら聞いてきた。おい!楽しみにとっておいたのになんてことを!お返しに卵焼きをもらったら同じく楽しみにとっておいたらしくぐちぐちと文句を言われた。お互いさまなのに。


「早く仲直りしなよー?」

「だから喧嘩なんかしてないって」


購買にジュースを買いに行く時に通る孝介の教室にちらりと目を向ければ、視界の端に映るあいつもあいつで何も変わらず男子とわいわいしてご飯を食べている。それはそれでむかつく。お手洗いにでも行こうかと席を立つとブーブーと携帯が鳴り着信名を見るとお付き合いを始めた「瞬くん」からだった。


「あ、もしかして例の彼氏?」

「そんなとこ」

「にやけんな!」

「へへへ」


友達の言葉を流し入れながら、少しだけ喉を鳴らして携帯の通話ボタンに触れる。


『もしもし』

『うん、どーした?』

『今名前とこの教室の近くなんだけどさ』

『うん』

『今出てこれる?』


携帯を耳に当てながら廊下に出ると同じく耳に当てている彼と他に友達だと思われる男の子が二人いた。ジャージを着ているとこを見ると体育館にいく途中なのかな。


「どーしたの?」

「いや、次中体育だから通るついでに顔でも見にきた」


駄目だった?とにこりと笑う瞬くんに思わず顔がにやけてしまった。これが彼氏と言うやつなのか。だとしたらきっと世間のカップルとやらはみんな脳内お花畑になるのにも今さらながらに頷ける。丁度一緒にいた瞬くんの友達にもさらりと「俺のカノジョ」だなんて紹介されてなんだかもっと女の子らしくしなきゃいけないのかも、なんて今まで考えもしなかったようなことまで脳裏によぎってしまった。瞬くんは下の階のクラスで丁度玄関付近の場所に教室があるため登下校してるわたしをよく見かけていたらしい。一回うっかり荷物を落としてしまったときにわたしに拾ってもらったことがあってそのときになんでも一目惚れしたらしい。生憎わたしはそのときのこと全然覚えてなかったのだけれど。


「それにしてもよく瞬なんかと付き合ったなー」

「よくあの野球部のやつと一緒にいたからそいつと付き合ってんだと俺らは思ってたから」

「そうそう!瞬の希望薄い恋が叶ってこいつちょー喜んでんの」

「ばか何言ってんだよ」

「あはは・・・孝介とは幼なじみなだけだよ」

「ま、瞬はすげーいいやつだからさ」

「たまにばかだけどよろしく頼むよ」

「一言余計だっつの!あ、じゃあ、そろそろいくから」

「うん、またね」


ひらひらと手を振って、次の授業なんだっけと教室に振り返った瞬間孝介が目の前にいて思わずわあっ!と声を出して驚くと「何驚いてんだよ」って今までみたいに笑いかけてくれたから、なんだかすごく嬉しくなった。顔をみなかっただけでもう何年も喋ってない気分だったから気まずさよりも嬉しいという気持ちの方がどちらかというと今は上回っていた。


「次、移動教室だぞ」

「あ、うん」

「・・・今のが彼氏?」

「・・・うん」

「・・・ふーん」


興味無さそうに返事をしてから「本当に好きになれんのかよ?」なんて嫌みったらしく無表情で喋る孝介に先程の嬉しさなんて全部ぶっ飛んでじわじわと怒りがこみ上がってきて「お生憎様、もう好きになってるから!!」とだけぶっきらぼうに返事をし、孝介の顔を確認する余裕もなく次の授業の教科書をとりに横を早足で通り抜けようとした瞬間腕をガシッと掴まれた。


「なに」

「本当に好きになったの」


なんなの、痛いんだけど!キッと今まで孝介に向けたことのないような目を向けたはいいけどそんなわたしとは反面孝介は悲しそうな表情でわたしに聞いてきた。一瞬黙ってしまいさっきとはうってかわった孝介の表情に戸惑いながらもグッと力を入れて再度口を開いた。


「好きだって言ってるじゃん!しつこい!」

「・・・なら」

「・・・」

「昨日言ったこと忘れて」


孝介はそのままするりとわたしの腕を下ろして何も言わず教室の奥へと入っていった。

大丈夫、わたしは瞬くんのことを好きになれるし孝介なんか居なくても全然平気だ。瞬くんはわたしの彼氏で、孝介は幼なじみ。忘れてって言ったのは孝介の方なのになんであんなに苦しそうにわたしを見るの?あの告白はもともと冗談じゃなかったの?わたしに、どうしろって言うの。目線を掴まれてた腕に向けると握られたとこがじんわりと赤くなっていた。