頭がぼーっとする。少しだけ残ってるアルコールに頭がぐわんと揺れてすごくだるい気分だ。


「苗字、起きた?」

「えっ、い、泉?なんっ、」


わたしががばっと起き上がるとそこは見知らぬベッドの上だった。勢いよく飛び上がったせいで頭の痛みが一時的に強さを増し、ガンガンと鳴り響いた。いったあ、と頭を抑えて顔を毛布に埋めると泉から大丈夫か?と再度お水を持ってきてくれたので、ありがとうと受け取って先程から気になってた疑問をぶつける。


「あの、ここって・・・」

「俺んち」

「ゲホッ、い、泉の家?!」


飲んでた水が喉につっかえてむせてしまった。泉の話によるとあの後わたしはしゃがみこんで泉によっかかったまま寝てしまったらしく終電も終わってしまう時間帯だったからとりあえず家に連れてきてベッドで寝かしてくれてたらしい。机には帰ってきてからまだ足りなかったのか飲んだのであろうビールの缶が2本並んでいた。


「安心しろ、なにもしてねぇから」

「な、何かされてたら困るよ」

「困るの?」


意地悪く笑ってギシッとわたしの隣に手をついて顔を近づけてきた。ち、近い!近い!!!思わず顔を逸らして火照った顔を枕でぼふっと隠せば泉のいい匂いがふんわりとした。あれ、なんだかこれってわたし変態っぽい。


「苗字さあ」

「なぁに」


枕の隙間から目をのぞかせると泉は冷蔵庫からもう1缶ビールを取り出していた。


「あんまり人の前であんなになるまで飲むなよ」

「普段あんなに飲まないよ!というか、寝ちゃったのとかはじめてだし・・・その、ごめんなさい」

「ならいいんだけどさ、俺以外だったら襲われてるぞ!」

「いやいや!わたしなんか襲われるわけないじゃん!」

「世の中にはヤれればいいってやつだっていんの!」


だから気をつけろよ、とビールのはしっこをコツンと頭にぶつけてきた。泉は高校の時からなにかとわたしの心配をしてくれていたなあとふと思い出す。ぶっきらぼうだけど根は優しくて、困ってる人をほおって置けないタイプだ。今だってこんな面倒くさい酔っ払い介抱してくれてるし。


「泉が彼氏だったら幸せなんだろうな」

「・・・はっ?」


ポロッと思っていた言葉をそのまま口に出してしまった。


「い、今のナシ!いや、ナシっていうか言ったことは本当だけどっ!」


わたわたと誤魔化していれば泉が少しだけ照れたような顔でわたしの前に座り直して、あーとか、んーとか唸ってから真剣な目でわたしを見つめ直してきた。


「あのさ」

「う、うん」

「俺がなんで田島も三橋も浜田もいねー同級会にわざわざ行ったと思う?」

「え、・・・なんで?」

「苗字がくるって聞いたからだよ」


その言葉を発したあと泉はさっき茶化してきたのとは違って、まっすぐ真剣な顔でわたしのところに近づいてきた。ベッドの上をずりずりと下がっても徐々に距離は縮まってトン、と背中がぶつかってもう逃げ場はなかった。泉の真剣な顔に思わず顔が熱くなってくのを感じた。こんなの、反則だ。わたしが泉の服の裾をきゅ、と掴むと泉が口を開いた。


「俺、ずっと苗字のこと好きだったんだ」

「・・・っ!」

「嫌だったら、嫌っていって」


泉と顔の距離があともう1センチくらいになって、どきどきと高鳴る胸の音が泉にも聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいわたしは緊張していた。泉の手が頬に触れてピクッと肩が揺れる。そして泉の唇がわたしの唇にゆっくりと重なった。


「、っん」


少しだけなのに長く感じたキスは、気持ちを泉にもってかれるのには十分すぎるくらいだった。こんな、優しいキスするんだ。とろり、と潤む目に泉がぼんやりとうつった。頬の手をするりと頭にもっていきわしゃわしゃと優しく頭を撫でてくれた。なんだかそれが気持ちよくて目を瞑ったら一瞬泉の手の動きが止まって「そんな顔されたらもっかいしたくなる」と照れたように笑いおでこに軽くデコピンされた。


「あの、泉」

「ん?」

「わたしも、泉が好き」

「・・・なっ、」

「ありがとうね」

「それはこっちのセリフだっつーの」


そう言って泉は抱きしめて好きだよ、ともう1度唇を重ねた。初キスはビールの味だねなんて机の上でじわりと汗をかいてるビールを見ながら照れ隠しで言ったら泉はバカ、と呟きながらも今まで見た中で1番の笑顔だった。