「俺はああいうの無理」


たまたまお昼を忘れて滅多にいかない購買に足を運んだらたまたまわたしが今気になっている人が居てたまたまわたしの話題になっていてたまたま泉の言葉を聞いてしまっただけの話。そう、たまたま。


「泉がそんな風に思ってるなんてしらなかった」


そう後ろから一喝してお財布でばこっと泉の頭を叩くと物凄くびっくりした顔をしてこっちを振り向いた。「…苗字」、と呟く泉をじろりと睨んでわたわたしている浜田と三橋にきょとんとしている田島をぐるりと見回してから最後にもう一度泉にきっと今世紀最大に不機嫌になっているだろうわたしの顔を向けてから購買から足早に出ていった。…泉のばーか。泉のせいでお昼買いそびれた、せっかく今日はパンが安い日だったのにどうしてくれんの。心の中で泉への文句を並べてこのどうしようもないわたしの気持ちは溜め息と共に誰にもわかることなく吐き出された。…泉とはそれなりに仲がいいと思っていたし、好意をもたれなくとも別に嫌いとまでいく間柄でもないと思ってた。田島の"苗字っていいよな!俺結構タイプ!"っていう質問にまさか泉の返事があれだとは思わなかったなあ。(泉にタイプだと思われてるなんて自惚れたことを思ったわけではないが)


「わたし、泉のこと好きだったのに、」


もういっそタイプだと言ってくれた田島を好きになりたかった。そう購買の先にある階段わきの壁にへたりと寄りかかると腕を誰かに引っ張られた。


「っ!……い、ずみ」

「その、ごめん」

「……嫌いなら嫌いでべつに

「田島が苗字のこといいとかいうから」

「は、」

「本当はあんなことおもってねぇよ」


泉にじいっと見つめられて息が苦しい。じわじわと捕まれている腕が熱をもちはじめてなんだか堪えていた涙が今にもこぼれ落ちそうだ。


「苗字のことが好きだ」