頭がくらくらする。先月はなんでか一ヶ月に一回でいいはずなのに二回もきたし今月もそのくせくるのが早かった。女の子特有のアノ日は毎回憂鬱になるものなのだ。そしてこうも不順になると余計にむかむかと胸の辺りがざわついて仕方がない。ああ、お腹まで痛みはじめてきた。カキーンといい音を立てながら高く宙に浮かぶボールを見ながらわたしは汗をつう、と滴ながらせっせと整備されていない外野の向こう側の草をむしった。


「なんか、顔色悪いよ?休憩する?」

「ん〜、でも皆も頑張ってるし」


わたしも頑張るよ。と心配してわたしのとこに来た千代に笑顔で告げると「無理しないでね」と被っていた麦わら帽子をわたしにそっと被せてくれた。


「わたしオニギリの具材みてくるね!」


千代が被せてくれた麦わら帽子をきゅっと被り少しだけくらくらとする頭を落ち着かせ「ありがとう、いってらっしゃい」と言って目下にある大量の雑草に視線を移して溜め息を吐いた。そういえば今日は二日目で一番量が多い日で、あれ?そういえばいつ変えたっけ。そう思いトイレに行きたいなあと思って練習してるみんなをよそ目にそそくさとトイレにいくと案の定取り替えていなかったソレは真っ赤に染まっていて見ているだけで気持ち悪い。


「はあ、ほんと女子ってやだなあ」


そう呟いて草むしりに戻ろうとしてベンチ前にいくとそこには阿部が居た。


「どうかした?怪我?」

「いや、キャッチ練やるから防具とりにきた」

「あ、そうなんだ!お疲れさまです」

「…つーか、お前も疲れてんだろ。これ終わったらダウンして上がりになると思うし先休んどけ」

「え、いやいや!疲れてるのはみんな一緒だからわたしだけ休んでられないよ」


そう言うと阿部は眉間にシワを寄せてわたしをいつものしかめっ面でみてきた。…え、わたし別に変なことは言ってないハズ…!「な、なに」と口にすればはあ、と溜め息をつかれて阿部が鞄からタオルを出してきてわたしの頭の上に乱暴に乗せてきた。


「そうじゃなくて、顔色悪い」

「え、」

「監督には言っといてやるから」


ちゃんとそこ座って暖かくしてろよ、といって上の防具を馴れた手つきでカチャカチャと着けていきながら三橋くんと監督のところに戻っていった。阿部に言われた通りにベンチにちょこんと腰掛けてみんなの練習をじいっと眺めていたら傷みと一緒にじわじわと眠気に襲われて 気が付いたら意識が遠退いていた。…そうだ、みんなにオニギリ作らなきゃ。オニギリ作って配って、そういえば草むしりも途中だったしそろそろ起きなきゃ。


「あ、起きた」

「……へ」


目を覚ますと膝には誰かの上着がかかっていて、隣には阿部が居た。正確には阿部しか居なかった。


「え、あの、みんなは?オニギリは?」

「オニギリ?みんなはとっくに帰った」

「…練習おわっちゃったの?」

「ん、つっても十分くらい前にみんな帰ったとこ」

「…阿部はなんでいんの?」

「はあ?俺が休めっていったのに先帰れねぇよ」


阿部の意外な優しさと副主将らしき責任感の強さをみて三橋くんが阿部のことを必要なまでに信頼しているのがわかった気がした。なんだかんだみんなに優しいんだよね、阿部は。


「さ、着替えてとっととかえんぞ」

「ありがとう、」

「今度から具合わりぃなら、ちゃんと言えよ」

「…うん!」


阿部の言葉に綻ぶ顔を隠しながら急いで着替えにいこうと思ったら阿部に腕を掴まれた。


「言っとくけど」

「へ」

「お前だから心配してんだからな」

「…!」

「ほら、さっさと着替えてこいよ」


そう言って掴まれた手を離されて背中を軽く押されて、返事をする間もなくわたしは上昇する体温を抑えながら早足でグラウンドをあとにした。

ああ、どんな顔して戻ろう。