どきどきしなくなる、とかズボラになるとか例えば髪型やメイクを変えただけで今日なんか違う?なんて言ってくれた彼は結婚してから何も変化に気づいてなんかくれないの。結婚してしまった友達は口を揃えてそう言った。だからあんなベタな現実に有りそうで無い昼ドラにはまってしまうのだと笑いながらいった友達はもう既に二児の母親だ。白いドレスに包まれてわあ、と高ぶるわたしに試着に付き添って下さったお姉さんが「よくお似合いですよ」とお決まりの台詞をわたしに投げ掛けた。わたしは見慣れない姿に脈打ちながらも心の中では希望と不安が入り交じっていた。


「とうとう明日だね」

「おー、つーか」


いきなり孝介はわたしを見るなりふっ、と笑って頭をぐしゃぐしゃしてきた。


「な、なに」

「…不安なんだろ」

「そんなこと、」

「バーカ、顔に出てンだよ」


何年の付き合いだと思ってんだ、とぐしゃぐしゃしていた手を止めてわたしの視界が真っ暗になったかと思えば目の前には孝介の肩があってすん、と鼻をすすればたちまち孝介の匂いで包まれた。


「不安かもしんないけど」

「うん」

「結婚後のことなんか俺にも分かんないけど」

「…うん」

「俺が絶対幸せにしてやっから」


孝介はそういってわたしをゆっくり自分から離しておでこをコツンとぶつけて「な?」と優しく笑えばずっと考えていた不安なんかはどこかへ飛んでいってしまったから不思議だ。きっとわたしは何年経っても子供が出来てもおばあちゃんになっても孝介に恋をし続けるんだろうなあ、と涙をぽたりと落とした。この人で本当によかったのだろうか、なんて考える余裕もなくすくらい、わたしには孝介じゃなければいけないのだ。


「明日から 泉 になんだろ」

「…!」


お母さんお父さん、わたしたち結婚します。