「もう孝介なんか知らない!」
そう言って電話をブツンと切った。切ってすぐに孝介から折り返しの電話が鳴ったけど今日は絶対に出てやんない。それから暫く着信音が鳴り響いていて鳴り止んだと思ったら次はメールの着信音が鳴った。ムカつきすぎると怒りを通り越してなんだか泣きそうだ。メールを開くとシンプルな文面で一行。
『急にどうしたんだよ』
それを見てなんだか自分が馬鹿馬鹿しくて仕方なかった。携帯の画面を下にして枕の下に隠して天井を見上げたら堪えてた涙がぽろりと一粒流れてきて悔しかった。わたしが怒った原因は今日に限った事ではない。孝介が部活で忙しいのは充分に理解しているつもりだし、メールがそっけないのも今までだって何度もあったし今日だって。いつもわたしの話を「おー」だとか「うん」だとかで纏められてしまうのが最近は凄く多くなった。いわゆるマンネリ?慣れていくのは仕方の無いことだと言い聞かせてはいたし、そんな彼の性格を分かっている上で好きになったしそれが孝介なのである。でも…明日は半年記念日なのに。
「すーやーまー」
「んー?」
「……こーすけー」
「俺は泉じゃねぇぞー」
「孝介が冷たい」
「今に始まったことじゃないだろ?」
「…巣山のばーか、」
「なんだよ…ってなに泣いてんの」
「……すやまあ」
あれからわたしはいつの間にか眠りについていて朝携帯を見ると孝介からはあれから何も連絡はなかった。…ばーかと呟いて電源を切ったまんま制服のポケットに突っ込んでむやむやした気持ちのまま学校へと向かった。わたしの後ろの席の巣山にこのうやむやを聞いてもらおうと思って巣山の机の側にガガッと椅子を引く。
「今日孝介朝練してた?」
「おう」
「普通だった?」
「おう」
「………」
孝介はわたしのことなんて気にも止めてないんだ、って思ったらまた涙が溢れてきて巣山に慰めて貰った。今日はね孝介とね、半年なんだよ。けどいつもみたいに冷たいしわたしの話半分は聞いてないし昨日とうとう電話でキレちゃった。クラス違うから喧嘩なんかしてる場合じゃないのに。そうぐずぐずの声と顔で机にほっぺたをくっ付けながら巣山に話をすると巣山もどうしていいかんからないような顔をしていた。いつもごめん巣山。
「…あ」
「なにー」
「そう言えば泉が珍しくノック一回もとれなくて監督にシバかれてた」
「え、」
ぐずぐずの顔をゆっくり持ち上げると巣山が入り口の方を指差してにんまりしていたから目を向けるとそこには息を切らした孝介が教室へと入ってきた、と思ったらわたしの手をぐいっと引いて教室から連れ出された。
「ちょっと、孝介!」
ある程度人の居ないところで手を離されると孝介がぎゅう、と抱き締めて耳元で「ごめんな」って謝ってくれた。
「半年も居たから名前に大分甘えてた、かも」
「…こーすけ、」
「つーか、昨日電話途中で切んなよな」
「それは孝介が」
「ん」
文句を言おうと思ったら目の前に野球ボールを差し出された。なにこれ、と受け取るとそこには「大好きだぜ これからもよろしくな」と孝介らしい殴り書きの字で書いてあった。吃驚して孝介を見上げると少し頬を赤くして「なんだよ」と少し照れたように見ていた。
「……ありがと、う」
「こんなもんで今は我慢して」
「…こーすけなんか、だいすき」
オレも、と涙を拭き取ってくれる孝介はいつもの何倍ものきらきらした笑顔だった。