骨と星と誰かの小指
付き合おう、そう言ったのはきっと本心だ。彼は本当にわたしが好きなのかもわたしが彼を本当に好きなのかもまだわからないけど、こういう関係でもいいのだとその時は思ってしまった。今思えば本当はやめておくべきだったんだ。こんな軽はずみな所から入ると抜け出せなくなっちゃうということを思い知らされることになるなんて。


[今日一緒に帰ろうぜ]


メールの送り主は泉孝介。昨日の電話を切ってからメールが届いて初めてフルネームを知った。それを考えたら昨日のわたしはいったいどうしたんだっていうのか。昨日はあの後泉は携帯を落としてしまい鈍い音がわたしの耳に残って慌てた泉が「まじ?!」と嬉しそうに話すから思わず笑みが零れた。


[いいよ]


と打つと五分位してちかちかと携帯が光った。内容はじゃあまた後で、との事だった。泉は意外にメールをあまりしつこくしないタイプでどっちかというとあっさりしていて大事なことしか送ってこなかった。わたしもそれなりに何人かと付き合ったけどこういうタイプは初めてだった。それからは順調に交際をしていきデートも何回か重ねてわたしは泉にはまっていくのが目に見えていった。然り気無い優しさや屈託のない笑顔、野球に真剣な所。全てが新鮮で愛しかった。毎日疲れてるはずなのに日課の電話は欠かすことなくしてくれたり、きっと密かに泉をすきな子は多いんだろうなと実感して寂しくなった。


それから季節は流れて二年の夏になった時だった。この頃にはお互い名前で呼びあうようになっていた。今日は大会が近いため他校との練習試合をするみたいで久し振りに野球をみたいと思ったわたしは友達を誘って見に行った。おー、始まってる。孝介気付くかなあ、と思ってじいっと見つめてると友達にきもいと言われた。付き合ってもう半年以上経った今、予想以上にわたしは孝介が好きみたい。悔しいから本人になんか言ってやんないけど!そう思い隣をちらりと見るといつかの暑いあの日にスレ違った金髪頭の人が居た。あれ?この人野球部じゃなかったっけ?ちらりと見たらその彼とばちっと視線がぶつかったと思ったらその彼は目を真ん丸く見開いた。


「・・・・・・え」

「?」

「名前団長さんと知り合いなの?」

「いや、まったく。てか団長さんだったのか」

「・・・アノサ、名前、サンって、もしかして泉の彼女?」

「そうですけど」

「そ、そうなんだ、びっくりしたー」

「なんでですか?」

「いや、あー、えっと、知り合いにそっくりで」


そう歯切れ悪く話す彼の言葉が胸の中でじわじわとわだかまりを残して響いていた。

"知り合いにそっくりで"

知り合いって誰の?彼の?それとも孝介の?その日は試合内容も頭によく入ってこなくて試合後孝介に声をかけにいったときもどこか胸の奥がじわじわしていた。そんなこの日はじりじりと暑くどこか曇った天候をしていた。