エスキモーになれない夜
仕事終わりに誰もいない家にただいまと玄関を開ける。ふうとため息をついてキーを壁にかけて着替えないまま布団にダイブする。ああ、そういえばもう11月か。カレンダーの29日の丸印をみて昔のことをふと思い出した。あの日はひどく暑い日で確か初めて君を見たのがこの日だった。野球とやらには全然興味なんてなかったが友達に引き連れられ見に行った練習試合で興味なんてないはずなのにどこかどきどきした。ルールなんて一切知らないけど周りと一緒になってそういえば大きな声だして応援したっけ。その翌週その友達と廊下を歩いていると友達がわたしの腕を思いっきり引っ張った。

「ちょっと、なに」

「ほらあそこ野球部!」


きゃあきゃあと騒ぐ友達が見ている方に目線をやると廊下の右側に四人の男の子がいた。おどおどしてる子は見覚えがある、確かピッチャーかな?あとは分からないけど、鼻にソバカス、頬にソバカス、ヘアバンドの金髪。みんなユニフォーム脱ぐとわっかんないなあ〜。


「かあっこいいね〜」

「うーんまあ」


正直男の子には興味がなかった。野球を見たときは選手よりも試合自体に感動してその日の帰りは友達にまた誘って!っていう位になっていた。うーん、またあのどきどきを味わいたいなあ。とぼけぼけ歩いているとその野球部とやらとスレ違った。

バチリ

「泉!なに止まってんの!はやくいこーぜ!」

「おー」


わたしはそのまま歩いてたから彼が止まったのは見えなかったけど目があった瞬間キンっとはりつめた空気に変わった。


ふーん、イズミくんっていうんだ。その日もあの日と同じくらい暑い日だった。