日曜日
「今日もお疲れ様でした」

「ありがとう」


今年は例年よりも10日も早く梅雨入りが来た。のわりにはじめじめしてるしもわもわしてて空気はどちらかというと梅雨というよりは、もう夏だ。昨年はあまり雨が降らなかったから今年はたくさん降るといいな〜、と呟くと勇人は室内練習になるから俺は降らないでほしいな。なんて不貞腐れた。野外練習も室内練習もわたしにはわからないけれどどちらも無駄にならない事なんだから頑張りましょうと言えば勇人は調子に乗るな、と頭を小突いてきた。でも痛くない。


「わたしさ」

「うん」

「6月の夜の空気すっごく好き」

「あ〜、うん。なんとなく俺にも分かる」

「ほんと〜?」

「あ〜、その目は信じてないな?」

「んふふ!信じてるって」

「嘘つけ」

「あっ、やだ!栄口そこ、ははっ!!くすぐった…っひっ、…ふふ」

「ふはっ、名前…っすっごい変な顔」

「ちょっと〜!脇腹はっ…くく!ひっ…だめだって…っはひ」


もう!と脇腹はくすぐってくる勇人に向かってすぐ横にあったクッションをぼふっと投げると勇人はようやくくすぐるのをやめてくれた。あ〜くすぐったかった!涙目になりながら言えばさっきのわたしの顔がそんなに面白かったのかまた一人で人の顔を見てはくくっと笑い始めた。なんて失礼なやつなんだ栄口勇人は。でも勇人が心底面白そうに笑うからつられてわたしもまた笑った。こんなんじゃ勇人の思い通りだ。ばかやろう。


「もう!話逸れた」

「なんの話だっけ?」

「勇人のばか」

「うそうそ」

「でね!」

「うん」

「なんか、7時頃の妙な明るさとね常に雨が降りそうだな〜って匂い。なんだか胸の奥がすっごいきゅうって切なくなるような匂いが6月の夕暮れ時にするの」

「なにそれ」

「あっ、やっぱり分かってなかったんじゃん」

「ん〜、う〜ん」

「え〜?でも分かるでしょ?5月とは全然違う空気。7月になればもう暑いからこの空気になるのは6月だけなんだよ〜!」

「名前」

「んー?」

「俺もわかるよ」


にこりと私の目を見てからわたしの手をぎゅうと握りしめてわたしの後ろに回って身体ごとぎゅう〜っと手を握るのよりも強く抱きしめてきた。苦しいなんて思わない。だって何ヶ月、何年経っても勇人に抱きしめられるのは大好きだから。去年よりも少し身体つきが変わって少しごつごつしてわたしの手をすっぽりと隠してしまうくらいの手にほど良い筋肉のついた身体。こうやってますますいい男になっていくのか、と勇人の将来を想像したら一人でにやけた。大人になっていく勇人の隣にはわたしもいればいいなあ。ふふ、とつい笑顔を零すと勇人はなに笑ってるのって頬っぺたをぶにっとつまんだ。


「この梅雨の匂いを嗅ぐとさ」

「うん」

「名前と付き合った頃思い出すから俺も好きだよ」

「…うん」

「胸の奥がきゅうってなる感じ」

「…ん」

「はは、顔だらしないぞ」

「へへ」

「今日うちでご飯食べてく?」

「え?いいの?やったあ」

「今日ねーちゃんが作ってくれるって」

「うっそお、お手伝いしてこよー」

「じゃあ俺も一緒に行こうかな」

「勇人疲れてるじゃん」

「そんなことないよそれに今日早く終わったし」

「無理しないでね」

「…名前、ありがとう」


少しだけさっきよりもぎゅっと抱きしめてからわたしのほっぺに軽くちゅ、と勇人の唇が当たった。勇人の方へ向き直して今度はわたしが前から力強く勇人を抱きしめ返せば今度はわたしの唇に勇人の唇が落ちてきた。ふふっと笑ってなんだかこれだけでお腹いっぱい、と笑えば勇人は俺は名前もご飯も欲しい。って言うからすっごいむかつくけどすっごい幸せだからなんでかまた笑ってた。そんな日曜日。