「阿部君、…チョコ貰って下さい!」
「あー、ありがと…でもわりいけど受け取れない」
「えっ、あ…ごめんなさい」
今日何回この光景を目にしただろうか。泣きながら帰って行った子も何人か居た。そりゃそうだ、せっかく勇気をだしてバレンタインという名の力を借りて好きな人に想いを伝えるチャンスだっていうのに阿部ときたら来る子みんなにこの対応だ。今時貰えたら普通照れてありがとう。と受け取るのが普通なんじゃないのか、と思うが阿部は違うらしい。貰えない男子が見たらきっと阿部は殺されるぞ。
「…阿部って甘いの嫌いだったっけ?」
「別に、何で?」
「あ、嫌いじゃないんだ。だってさっきからずっとチョコ断ってるから」
「俺は好きな奴からしか貰わない。わざわざお返しもめんどくせーし」
「…うわ、こんなやつがもてるなんてやな世の中だ」
「しばく」
「うそうそ!で、その好きな子とやらには貰えたの?」
そんな質問をしたら阿部は私の方を軽く睨んでその後軽く溜息を付いて俺の好きなやつくらい知っとけよと机に突っ伏した。いつも仏頂面の阿部の好きな子をわたしが知ってたら逆にこわいでしょーが。
「ふーん、その好きな子に貰えるといいね」
「…どーも」
「てかさーその子どんな子なの?」
「はあ?」
「阿部が恋してるとかぶっちゃけ想像出来なくて笑える」
「まじでうぜー」
「てかせっかく隣のよしみで阿部にも作ってきたのに」
鞄から作ったチョコレートケーキをがさりと出して阿部がどうせ食べないなら水谷辺りに渡したら喜ぶかなとか考えていたら手元にあったそれはいとも簡単に阿部に奪われた。
「これ俺に?」
「へ、そうだけど、いいよ無理に貰わなくて」
「…まだわかんない?」
「…え、え、ええ?!」
「来年までには本命チョコになっとくつもりなんでよろしく」
そういってチョコレートケーキにがぶりとかぶりつく阿部は厭らしく笑った。