ブラックホールでおめでとう
心臓が止まるかと思った。いつまでたってもかけれない電話番号を表示したままベッドでねっころがっていたらふいに手が画面をタッチしていて孝介に電話をかけていたらしい。画面が明るくなって通話中に切り替わってますますわたしは動揺するしかなくてベッドなのに正座しながら携帯を耳にくっつけた。


「もしも、し。こー、すけ?」


緊張しすぎて目から今にも涙がこぼれ落ちそうだった。こんな緊張したのは高校受験以来だ、もしくはそれ以上かもしれない。震える声で声を絞り出したが孝介からは返事がなかった。番号が変わってたからわたしのアドレス消しちゃったのかなって思ったけど少し間が空いてから「久し振り」と耳を擽った。変わらないテノールの音に心臓がぎゅうっと縮こまって苦しい。


「あの、さ」


言わなきゃ


「今から会えないかな」


膝の上で握られている拳はどうしようもないくらい固く握られていて汗がじんわりと掌に伝う。孝介の向こう側からはなにかがさがさと音を立てていて階段をかけ降りる音も一緒に聞こえてきた。


「浜田が働いてるコンビニの近くに住んでんの?」

「う、うん」

「今すぐそっちいくからその近くの公園にいて」


ばたばたという音と一緒に電話もツーツーっと切れた。頭が上手く回らなくてベッドの上で暫くぼーっとしていた。いけない、と思い急いで髪の毛を直して化粧も少しだけ上乗りさせて足早に家を飛び出した。


公園に着くと孝介はまだ来てなかったみたいでどこかほっとしてベンチに腰掛けた。それから何分かしたらじゃりっと土を踏む音が聞こえてその方向に目をやると肩で息をしている孝介がいた。久し振り見る孝介は高校時代よりも大人っぽくなっていて少しだけど背も高くなってた。


「わりぃ、待たせて」


目の前に孝介がいると思ったら自然と目から涙が出てきて孝介の方を向けなかった。


「なんで下向いて・・・」

「っ、」

「・・・・・・ばーか、なに泣いてんだよ」


くしゃりとせっかく整えたばかりなのに孝介はいつもの優しい手でわたしの頭をがしがしと掻き回しどすんとベンチに腰をかけてそのままわたしの頭を自分の肩のところに引き寄せた。


「・・・こーすけ、」

「名前、このまま聞いて」


「確かに俺は元カノにあった。甲子園の報道で俺を見つけて会いたくなったって言って、何回もメールとか着信あったんだけどずっと無視してたら、あの日学校まで来てたんだよ」

「・・・うん」

「より戻そうって言われて、泣きつれたとこをたぶん誰かに見られてたんだと思う。もちろん名前が居るからちゃんと断ったけど、次の日学校行ったらいろんなやつがその話しててびびった。絶対お前の耳にも入ってると思って急いで行こうとしたときに浜田がお前に元カノににてるって話したって聞いて」

「・・・っ!」

「案の定名前泣いてるし、別れようって言われた時も、引き止めれなかった」


「俺、名前とあいつを比べたことなんて一度もない。俺は名前だから好きになったんだぜ、それだけは信じて欲しい」


色々ごめんな、って呟く孝介。わたしは何も孝介のことを分かっていなかった。元カノっていう存在を一番気にしていたのはわたしだったということ、孝介はただまっすぐにわたしだけを見ていてくれたのにどうして気付けなかったんだろう。わたし、サイテイだ。そう思ったら涙がぽろぽろとこぼれ落ちてスカートにシミを作る。そんなわたしを見て孝介はもう片方の手でわたしの空いている方の手をぎゅう、と握り締めた。


「・・・・・・こう、すけ」

「俺さ、名前から電話来たとき心臓壊れるんじゃないかってくらい緊張した」

「そんなん、わたしだって そう 、だよ」

「電話してくれたって事はさ、俺まだ期待しちゃっていいの?」

「・・・え」

「今でも名前の事が好きだ」


頭の上にあった手をうしろに回して自分の胸のあたりにわたしをぐい、と孝介に抱きしめられる体制にされた。昔よりももっともっと大きくなった身体に大人びた声、懐かしい匂いに包まれて更に涙が目からこぼれ落ちてくるのが分かった。


「わ たしっ、ずっと、本当はずっと 孝介に会いたかった、!」

「・・・俺も会いたかった」


孝介の声は少し震えていて胸がぎゅうと締め付けられた。二人で涙ぐみながら目が合ってどちらからともなくキスをすると丁度0時を告げる鐘が小さく響いた。唇が離れてわたしは「あ!」と声を漏らすと孝介は「なに?」と不思議そうに首をかしげていた。


「お誕生日おめでとう孝介、大好きだよ」


そういって今度はわたしから孝介にキスをするとサンキューとくしゃっとした笑顔を見せてくれた。そんな今日は肌寒いけど澄んだ綺麗な空気に包まれていた。