あの日から友子は孝介くんに頻繁に絡むようになった。何か話す度にわたしにどうだったああだったと事細かに説明をしてくれる。罪悪感にずきずきと痛む胸を隠しながらよかったね、なんて本心じゃないのににこりと笑うことしかできないわたしをきっともう一人のわたしは呆れているに違いない。


「わたしね、泉のことやっぱ好きだわ」


いつものようにわたしの所にきてにこにこしながら伝えてきた友子はここ最近で泉くんから泉って呼ぶようになったこと、本当は彼女が孝介くんと近付いていく度に不安に駈られていることすらわたしは罪悪感に押し潰されそうだった。なんではじめに実はね、って言えなかったんだろう。


「こういう話出来るの名前しかいないからついたくさん話しちゃう!」

「聞くしか出来ないけどね」

「そんなことないよ!」


わたしの一番の友達だもん。屈託もなく笑う友子を見てなんだか切なくなった。入学当時なかなか溶け込めなかったわたしに声をかけてくれてからずっと一緒にいてくれてる。わたしは孝介くんに好きだって言われたからただ気になって好きだと勘違いしただけなのかもしれない。きっと、いつも感じる不安感だって、本当は全部勘違い。孝介くんも大切な存在だけれどそれと同じように彼女だってわたしの大切な存在なのだと彼女がわたしにありがとうと言ってくれる度にひしひしと痛感する。

だからこそ、きちんと話しないと。うん。
ホームルームがはじまりそうになったから自分の席に慌ててついてちゃんと友子に話をしようと決意したら隣から視線を感じた。


「あのさ」

「・・・ん?」

「ゲンミツにしかめっつら!」

「うそ」


ここシワよってんぜ!と眉間のところに手を当ててわたしの顔を除き込む悠くん。


「なんか悩みごとか?」

「うーん、まあ」

「じゃあさ!今日練習見にこいよ!」

「じゃあの意味が分かんないんだけど」

「いーからいーから!俺のかっちょいーとこ見たら元気出るぜ!ゲンミツに!」


悠くんなりにわたしのことを心配してくれてるのかな、と思ったら思わず頬が緩んで、わかったと返事をしていた。そんな話をしてたら自販機から教室に戻ってきた孝介くんが悠くんの前の席にどかっと座った。


「なに、今日練習みにくんの?」

「あ、孝介くん」

「そ!元気無かったから誘っといた!」

「元気ないってなんかあったの?」

「いや!大したことじゃないんだけどちょっと考え事してて」

「ふーん」


孝介くんは少しわたしのことをチラ見して、ため息をついた。


「あんま一人で抱え込むなよ」

「え、あ、ありがとう」

「おー、いつでも飯くらい一緒にくってやっかんな!」

「お昼飯ならいつもこの辺でくってんじゃん!」

「あ、田島もしらねーのか。名前一人暮らし」

「へー!!一人暮らし?!かっちょいい!!!てか俺も名前って呼びたい!」

「かっこよくないよ。え、いいよ。もちろん、呼んで!」

「やったね」

「ま、夜とか一人で居たくないときはいつでも呼べよ」

「はいはーい!俺も俺も!」

「二人ともありがとう」


嬉しくて思わず泣きそうになってしまった。わたし9組でよかった!もう一度ありがとうと告げると次の授業の予鈴が鳴り響いた。


「あ、そーだ」

「ん?」

「これやるよ」


そういって孝介くんはカーティガンの裾からもうひとつ空き缶を取り出してわたしの机の上にことんと置いた。


「元気だせよ」


そのまま足早に自分の席に戻ってしまった孝介くん。ことんと置かれたココアに、本当は悠くんなんかよりも先にわたしが何か考えてるのに気付いて孝介くんなりに励まそうとしてくれたのかも・・・。わたしの自惚れかもしれないけど、孝介くんの優しさが今は切なかった。