じゃあまた明日学校でな。という孝介にありがと!と大きな声で言うと自転車に乗りながらこっちを向いて手を軽くあげて、家に帰るかと思ったらなぜかもう一回自転車を降りてたしの前に向き直した。


「あのさ」

「う、うん」

「俺も苗字のこと、名前で呼んでいい?」

「・・・も、もちろん!」

「ありがとな」


頭にぽんと、手を置かれて優しく撫でられて思わずどきどきと鳴る胸をおさえながらじゃあ、と名残惜しいなんて思いながら手をおろした孝介くんの背中が見えなくなるまでわたしは家に入れなかった。孝介くんの事を好きだと気付いたのはいいけれどそう気付いた所でなんて言ったらいいかが分からない。あれから再度告白されたわけでもないし、わたしから今好きというのもなんかまだ違うのかもなんてぐるぐる考えてしまう。

ただ他の人よりは孝介くんと近い距離にいることは確かだ。初めはかっこいいかもっていう興味だけだったけど、孝介の色々な一面を知っていくにつれてどんどん惹かれた、優しい所、少し意地悪な所、私にむけてくれる笑顔や言葉、告白されたあの日から本当はわたしも好きになりはじめていたのかもしれない。


「最近泉くんと仲良いんだね」


朝学校へいくと友達の友子がふいにわたしにそう言った。昨日気付いたばかりの気持ちを抑えながら友達の問いかけに平常心でまあ仲はいいかなと答える。そう言うと友子は少し躊躇いがちにさらにわたしに問いかけた。


「泉くんの好きなタイプわかる?」

「・・・タイプ?」

「この間たまたま喋ったら泉くんいいなって思ったんだよね!」


普段野球部といるから喋る機会なかったけど、喋ってみたら結構ノリよくってさ!と少し照れたようにはにかむその様はまるでいかにも恋をしています。と言っているようなものだった。


「名前なら知ってるかな、と思ったんだけど」

「・・・う〜ん、わかんないや」

「今度聞いといてよ!ね!」


お願い!と顔の前で両手を合わせていう彼女の必死さに嫌とは言えずにうん、と返事してしまったことを横で喜んでいる姿を見てからひどく後悔をした。昨日やっと気付いたばかりの孝介くんへの恋心に嘘をついてしまうはめになって、なんだかうまく笑えない・・・ど、どうしよう。


「苗字おっはよ〜!」


大きな声でわたしに挨拶をする悠くんの横には孝介くんが一緒に朝練習が終わったのか二人でこちらに向かって歩いてきていた。おはよ、と小さく返事をして孝介くんをちらりと見ると挨拶を仕返してくれたのを聞いて昨日のこともあるせいか、どうしても高鳴ってしまう気持ちを隠そうと平常心平常心、と心で唱える。どうしてこうも恋というやつは意識した途端好きな相手がきらきらと輝いて見えてしまうのだろうか、わたしの目に映る孝介くんはいつもの二倍、いや三倍はきらきらと輝いていた。そのまま成り行きで四人で教室まで向かう途中こっそりわたしにやっぱカッコイイね!今聞いてみてよ!とこっそり耳打ちをしてきた。告白された相手にタイプを聞くのなんて愚問すぎてどう聞いていいかがまったくわからず悶々していると悠くんがふいに口を開いた。


「そういやさ!昨日すっげえ可愛い子見かけちゃったんだよね〜!!ゲンミツに!」

「どんな子?」

「可愛い感じのショートヘアーでスタイルよくて胸がでかい!」

「結局田島は胸かよ」

「田島くんサイテイ!」

「悠くんってそんなキャラだったの?」

「田島に目つけられないように気を付けて」

「泉ひでえ!じゃあそういう泉はどんな子好きなんだよ」


悠くんのこの一言に私は救われたと同時に冷や汗がつー、と背中に流れるのを感じた。友子は田島くんよく聞いてくれた!と言わんばかりに孝介くんを見る。わたしも友子につられて孝介くんの方をそうっと覗き込むとバチりと目が合って少し顔が強ばるわたしを見て孝介くんは悪戯っぽく笑って


「田島には教えてやんねー」


とわたしの反応を楽しむかのように言った孝介くんに更にどきどきが増した気がした。