「ちょっと待たせちゃうけど待ってて」
あっという間の月曜日がやってきて、放課後泉くんは悠くんたちと一緒に野球部のミーティングとやらに向かって足早に出て行った。わたしは一人でぽつんと席に座りちらほらと帰っていくクラスメイトをぼーっと机に突っ伏しながら一人一人を目で追っていった。なんだか眠くなってきたなあ。うとうとしはじめて寝ないようにとしつつもとりあえず目をとじて周りの静けさを堪能する。放課後の誰もいない教室ってなんだか好きだなあ、そう思ったとき教室のドアががらっと開いた。
「わり!終わった!」
「おつかれさまです」
「じゃあ帰るか」
「うん」
横目でちらりと泉くんを間近で見ると、可愛いと思ってたはずの彼が日増しでカッコよくみてしまってわたしは凄い人に告白されたんじゃないかとそわそわしながら隣を歩く。
「んでさ!」
「うん?」
「今日おふくろの誕生日でさー!なに買えばいいかわかんないから苗字に選んでもらおうと思って」
オレみたいなんが女もん買うのもはずいじゃん。ってはにかみながら照れたように話す泉くんはきっといい家庭に生まれて可愛がられてきたんだろうなあと感じた。きちんとお母さんにプレゼント渡すなんて泉くんてほんとダメなところが見つからないよ。
「わたしでお役にたてるかわからないけど、全然いいよ」
「つーかまあ苗字と帰りたかったってほーがでかいけど」
「へ」
「さ、行こうぜ」
さらりと恥ずかしいことをいうもんだから変な声がでて思わず立ち止まってしまった。いつもはクールだし気だるそうに浜田くんとか悠くんとかと話すから恋愛面でも勝手にクールなのかなあ思ったけど、あの日覚悟してって言われた言葉が今になってじわじわと実感してきちゃったな。きっと他の子が泉くんのこと知ったらみんな好きになっちゃうよ。
「なに止まってんの?いくぞ」
「う、うん」
「はは、顔赤い」
「むう、これは孝介くんのせいじゃん!」
仕返しと言わんばかりにそういうと今度は泉くんが立ち止まってわたしの方を驚いたように見た。え、なに。名前で呼んだのいやだったとか・・・?
「・・・名前」
「え、うん・・・」
「孝介って呼べんじゃん!」
「だ、だって!泉くんがそう呼べって、」
名前で呼んだだけなのにすっごく嬉しそうににまあっと満面の笑みでちょー嬉しい!なんて言うもんだからたいしたことしてあげてないのにこっちまでつられて笑顔になった。孝介くんのこともっとちゃんと知ろう。そしてわたしのことももっと知ってもらおう。・・・これって好きってことなのかは分からないけどただ孝介くんのこときになりはじめているのは確かだった。
それから色々ぶらぶらして結局ケーキと入浴剤とかパックのちょっとしたものを選んであげた。パックをみておふくろよく風呂上がりこれやってるわ!顔恐怖!って笑いながら孝介くんが言うからわたしもたまにやるけど恐怖だよね〜と笑うと見てみてえと更に目を細くして笑った。
「うし、今日はさんきゅ!付き合わせて悪かったな!」
「あんま役に立てなくてごめんね」
「オレだけだったらこんなんかえねーもん」
二人で笑いあっていたら、送ってくよ家どこ?と言ってくれたのでわりとその場から家が近くだったのでお言葉に甘えることにした。反対側に歩きだそうとしたら孝介くんがげっ、と声を漏らしたから何だろうと思ったら前の方から30後半くらい?の可愛らしいおばさんが私達のとこへ足早にかけてきた。
「やっぱこーちゃんだ!」
「・・・うぜえ〜」
「もー!お母さんに向かってそれはないでしょ!」
お、おかあさん?!
「こーちゃんこの子彼女?」
「ちげーよ!クラスメイト」
「ふ〜ん?」
孝介ママは口に手をあてにやにやしながらつついてた。孝介くんは顔を真っ赤にしながらぎゃあぎゃあとしていた。こんな姿みれるとかなんかレアかも・・・。するとお母さんがくるりと振り替えって何かひらめいたような顔をした。
「あ、そうだ!良かったら夜ご飯一緒にどーお?」
「わ、わたしですか?」
「そうよ。ねえ、こーちゃん」
「苗字がいいならくれば?」
「でも今日せっかくの誕生日・・・」
「あらやだ!知ってたの?」
「いつもよりいい飯あると思うし苗字の親がいいっていうならくれば?まあ無理にとは言わないけど」
「わたし一人暮らしだからその辺は大丈夫なんだけど・・・」
そういうと二人そろって「一人暮らし?!」と驚いた顔をしたあと孝介ママがわたしの手をとった。
「なら余計うちきなさいよ!」
一人で食べるご飯ほどつまらないものはないわよ!ねえ?と孝介ママが言うとじゃあ決定だな!とわたしに孝介くんは笑った。えええ、本当にいいのかな。・・・けどそういえば誰かと食べるご飯って久しぶりかもしれない。
「じゃあまだ買い物あるから後でね!えーと、そういえば名前は?」
そういえばまだ名前を言っていなかったや。失礼極まりないな。苗字名前です。と言うと孝介ママはじゃあ名前ちゃんまた後でね!とにんまり笑って私たちの前を足早に去っていった。うわー、うわー、すっごく可愛いお母さん。
「なんか無理矢理っぽくなってごめんな」
「むしろいいの?」
「それは全然いい!あー、兄貴うっせえかな」
「お兄ちゃん居るんだ!」
「おー、うぜえのがいる」
ははと笑いながらわたしの家に向かおうとしていた足をまた戻して孝介くんの家に方向転換させた。とぼとぼと歩いてると数十分で着いたからあっという間だったのと、意外とわたしの家から近いかも。孝介の家は立派な一軒家だった。カシャンとポストを確認して部屋掃除しとけばよかった、と苦笑いしながらまあ男子は汚いもんだからとわたしを招き入れてくれた。お邪魔しまーすと小声で言うと孝介くんのお兄ちゃんらしき人が出てきた。
「こーすけおかえり今日かあさんの誕生日だって覚えて・・・た?え?」
「お邪魔し、ます」
「・・・あ、はい、汚い家ですが」
孝介のお兄ちゃんは頭をぼりぼりかきなぎら気だるそうに出てきてわたしを見るなりだんだんとしゃべる言葉が消えかけていってびっくりした顔でわたしたちをみていた。え、なに?彼女?と孝介ママと同じ反応を示していて、孝介くんは同じように返事する。・・・にしてもお兄ちゃんは孝介くんをもっと大人にしてそばかすを無くしたバージョンだ。つまりそっくり。
「ふーん、孝介やるじゃん」
「だまれくそあにき」
「・・・はは」
家に居る孝介くんはなんだか新鮮でいつも以上に緊張しているのとなんで今ここにいるのか不思議でしょうがない気持ちで頭がついていかなかった。
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