ご飯を適当に済ませてベッドに寝転がると静かな部屋が携帯の着信音で包まれた。寝返りをうって携帯電話の画面を見ると登録されてない番号が表示されていた。知らない番号ってことは栄口くんかな?


「もしもし」

「あ、苗字さん?俺、栄口!」

「栄口くんじゃないかな〜と思ってたよ」

「あ、本当?さっき部活終わったんだ」

「そうなんだ!お疲れ様」

「ありがとう」


栄口くんの電話の後ろではガヤガヤとしていて、まだ部員のみんなといるらしく、わたしは内心孝介くんが近くにいないかどきどきしていた。別に悪いことをしているわけではないし、栄口くんにも失礼な話だけれど。


「栄口〜、誰と話してんの?」

「水谷!・・・ナイショ」

「うわ女の子だろぉ〜!ずる〜!」

「うるさい」


ごめんね、と栄口くんが言うとさっきまで騒がしかった後ろが静かになった。


「さっきの野球部の人?」

「そうそう、煩くてごめんね」

「気にしてないよ」

「あのさ、今度よかったら」

「ん?」


栄口くんが何か言いかけたところでピンポーンと家のチャイムが鳴り響いた。


「あ、ごめん!誰か来たみたいだからまた明日話聞くね」

「オッケー!いいよいいよ!電話番号登録しといて」

「ごめんね、ありがとう!おやすみ」


せっかく電話してくれたのにごめん〜、と思いながらいそいそと携帯を机において、こんな時間に誰だろ、とインターホンを見ると孝介くんが少し気まづそうに立っていた。ガチャリ、と静かにドアを開けると小さな声で「・・・オス」なんて弱々しく言うからわたしも小さな声同じように返事した。


「ワリー、メールしたんだけど」

「嘘、ごめん。全然見てなかった・・・」

「いや、こっちこそごめん」

「生徒手帳だよね?」

「そう」

「ちょっと待っててね」


机の上においてある生徒手帳を手に取り玄関へと急ぐ。さっき落とした涙のあとに気付かれないように両手で握って孝介くんの手の中に押し渡した。


「悪かったな」

「え?」

「その、色々と」

「・・・」

「まだメールみてないんだよな?」

「・・・あ、うん」

「見てないなら直接口でいうけど、俺まだ名前のこと好きだ。けど、そう言うこと抜きに友達として名前のこと好きだから前みたいにしてほしい」

「・・・っ」

「だめかな」

「だ、ダメじゃない!わたしも、本当は・・・」


本当は、友達なんかじゃなくてわたしだって恋人同士になりたかったのに、その言葉はきっといつまでも言えないままわたしも孝介くんのことまだ好きなまま


「友達でいたい」


そう言うしかなかった。この言葉を聞いた孝介くんは、この日初めてわたしに笑顔を向けてくれた。こんなこと、本当は孝介くんに言わせちゃ、いけないことなのに。

孝介くんが帰ってからメールを開くとさっきの内容とほぼ同じ文面があって、孝介くんにどれだけ都合よくしてもらってるのか、優しくしてもらってるのか改めて実感して情けなくなった。この日は栄口くんの電話番号を登録することも忘れて、眠りについていた。