俺はてっきり脈があると思っていた。

初めて名前を見た時、普通に可愛い子だなって思ってから俺は気づけば目で追っていて好きかどうかはまだわからないけど気になる存在だった。同じ野球部になった田島が隣の席になってから近くで見る機会が増えたけど話すきっかけなんてものはなく、俺も部活が忙しくて休み時間とかは睡眠にあてていたから当たり前といっちゃ当たり前だ。入学して三ヶ月くらいがたったころ田島が名前と野球部の話をしているのがふいに聞こえてきて、あまりに田島がしつこく誘ってるなか目が合った。こりゃー、困ってるな。そう見かねて声をかけたけど、2人で会話をするって感じではなくどこか物足りないまま振り向いて彼女をもう1度見ればぱちりと目が合い、思わず顔が笑ってしまった。その時名前が控えめに俺の服の裾を掴んでありがとうと今までみたことない笑顔を向けられてストンと、俺は名前が好きなんだなって自覚したのを覚えている。


「好きだ」


そう告白したのはその日から何日かたったあと。このままじゃただのクラスメイト止まりで友達にもなれなそうだ、と考えに考え抜いて意識だけでもしてくれればいいと思って俺は思わず教室でたまたま移動が遅れて二人になった時、つい呼び止めて告白していた。自分でもこんなに行動的だったなんてびっくりする。えっと、と不安気にこっちをむく名前に宣戦布告をしてから、驚くスピードで仲は良くなっていった。喋れば喋るほど好きになるし、ほっておけない存在。風邪で休んだって聞いた時は気が気じゃなかったし、なにより一人暮らしってのがさらに俺の心配症を悪化させていった。思わず抱きしめた体は小さくて柔らかくて女の子なんだと、さらに実感する。


「孝介くんとは付き合えない」


そう言った名前は泣きそうだったが俺にはどうして名前が泣きそうなのかわからない。好きだと言われたのは事実なのに、それは友達としての好きってことなのか。どっちかっていうと泣きたいのは俺の方だ。確かに抱きしめた感覚は未だここに残ってるというのに。静かに名前の家を出れば虚しく自転車の音がカラカラと響くだけだった。