抱きしめられたまま、きっとまだ一分と経ってない位なのにわたしには一時間とかもっともっと長い時間に感じた。わたしを抱きしめたまま黙ってわたしの返事を待つ孝介くん。時々首筋に当たる孝介くんの吐息にどきどきしながらわたしは頭の中でどうしたらいいのか悩んでいた。


「・・・孝介くん」

「・・・」

「わ、わたし孝介くんのこと」

「・・・ん」


肩のところに顔を埋めたまま小さく声をもらす孝介くんに、言わなきゃ言わなきゃと浅く呼吸をして言葉を続けた。


「好き」

「・・・っ!」



「だけど、今、まだ、付き合えない」



ごめんね、そう告げてから顔をあげれずにただ黙って下を向いて手を固くぎゅうと握りしめて目を瞑った。何分後かしてただ一言ありがとなって笑って頭を撫でてから静かにわたしの家から出ていった孝介くんになにひとつかける言葉なんてわたしにはなかった。あんな顔をさせたかったわけでも、こんなことを望んでたわけではなかったけど、事実その顔にさせてしまった。


「・・・孝介くん、」


呟いた言葉は虚しくシーツの隙間に消えてしまった。










次の日目を覚ますと一通メールが来ていた。それは孝介くんからでわたしはどうしてもメールを見ることが怖くて携帯の電源を切ってなにも知らないフリをして学校へと向かった。

教室にはいってそうそうきまづいはずの孝介くんがわたしの前にきてわたしは思わず思いきり目を逸らしてしまった。別に孝介くんはなにも悪くないのに、ちらりと見れば少しだけ困った顔をさせてしまった。


「メールみた?」

「あっ、ごめん電源ずっと切れてて・・・」

「そっか、ごめん昨日忘れもんしたみたいでさ」

「うそ、なに忘れたの?」

「生徒手帳。ポケットから落ちてたみたいで、なかったら別にいいけど今日みといてもらってもいい?」

「うん、わかった」


そのままにぃっといつものように笑ってなにもいわずに自分の席に戻っていった孝介くんの背中をみつめては、ただただ胸の奥が苦しかった。わたしの昨日の選択は結局は自分を守るための嘘でしかないことに泣きたくなった。わたしは、きちんと友子に言わなきゃいけないんだと手のひらにきゅっと力を入れた。


「おっ、風邪もうよくなったのかー?」

「悠くん!ノート、とってくれてありがとね」

「あのくらい全然いいって。それよか泉がめっちゃ心配してた!」

「え、・・・そうだったんだ」

「昨日なんか練習おわったらすぐ着替えるから何事かとおもったぜ〜」


そしたら名前ん家行くって慌ててた!なんて喋る悠くんの言葉に思わず涙が出てきてしまった。止まれ、って思えば思うほど目から止めどなく零れてくるし、いきなり泣きはじめたわたしに悠くんは戸惑っていたけどぎこちない手で頭をわしゃわしゃと撫でてくれる優しさにまた涙がぼろぼろと零れてきてしまった。