「わたし、フェンスのとこでいいっ」

「だーめ!」


わたし部外者なんだけど・・・!そんなわたしの言葉に耳を傾けることなく悠くんはわたしの手を引いてグラウンドの中へと誘導してくれた。ちわっ!と大きな声で挨拶してる悠くんにびくびくしながら小声でちわー・・・と言うとベンチ付近には野球部が沢山いた。こ、こわい。入るとすぐみんながバッとこっちを見るから思わず悠くんの後ろに隠れた。


「田島ー誰その子!かわいい〜」

「隣の席の名前!」

「マネジ志望?」

「んーん!見学!」


茶髪のふわふわした男の子と坊主のいかにも野球部ってかんじの背の高い男の子が悠くんに質問している。わたしもなにか喋らなきゃいけないよね・・・!あの、と言いかけた所で女の人が隣にきた。ひえ、胸おっきい!思わず自分のをちらりと見て思わずため息をついてしまった。いや、これはあの人がおっきすぎるだけだよね?!


「あなたマネジ志望?!」

「ち、違います・・・」

「監督ー!俺の友達なんだけど見学してもらってもいいですか?」

「うーん、でもマネジ志望じゃないのよね?」


腕を組んで困ったように笑うこの人は監督さんらしい・・・。そういえば悠くんがマネジ一人で大変そう、って言ってた気がする。


「あ、あのマネジにはちょっとなれないですけど、お手伝いしていってもいいですか」

「あら、そうねー、ちょうど千代ちゃん一人じゃ大変だったし助かるわ」

「はい、よろしくお願いします!」

「じゃあ好きなだけ見学してってね!それで少しでも気が向いたら是非マネジに!」


にっこり笑ってぎゅうと両手を握りしめてくれた。その手はすごくあたたかくてつられてわたしの手もほかほかしてきた。


「あちゃー、なんかごめんな」

「ううん!せっかく見学させてもらうなら何か手伝いたいし」

「そっか、サンキューな!」


にいっと笑ってそのまま抱きついてきた悠くんにびっくりしてわあっとそのまま後ろに倒れてしまった。そしたらすぐ近くに居た短髪の色素の薄い男の子が「大丈夫か〜?」と悠くんを引き離して手を差し伸べてくれた。


「ほら、田島もちゃんと謝れよー!」

「ごめんな!つい嬉しくて!」

「あはは、いいよ〜!あと、ありがとうございました」

「怪我ない?というか新しいマネジ?」

「大丈夫です!あ、ちがくて見学させてもらいに」

「そうなんだ!俺は栄口勇人っす、よろしく」

「苗字名前です!お願いします!」


それからある程度人が揃ったとこで皆には悠くんがざっくり説明してくれてマネジの千代ちゃんに色々話を聞きながら皆の練習を見ていた。それから千代ちゃんと一緒におにぎりを握って結局わたしは最後まで居ることになった。初めて悠くん達が野球をしてるとこを見て教室とは違った一面を見ることが出来てなんだか嬉しくなった。みんなすごく楽しそうにしていてなんだか羨ましいなあ。今は一人暮らしだからお金もないし部活なんてとてもできないと思ってたからなんだかこうしてみんなの一員みたいにしてもらって嬉しいな。練習が終わっておにぎりを配りにいくとみんな笑顔でありがとうと言ってくれるから千代ちゃんがあんなにきらきらと楽しそうにマネジをしている理由が少しだけ分かった気がする。


「はい」

「サンキュー」


最後に孝介くんにおにぎりを手渡すとそのまま横座れば?と言われたのでじゃあ、と横に腰を下ろした。


「見学だけのはずが手伝わせて悪かったな」

「ううん!むしろ楽しかったからありがとう」

「ありがとうって・・・こっちの台詞」


孝介くんがふんわりと笑うから思わず顔に熱が集中した。その笑顔はいつもわたしにだけに向けられている笑顔だと知ってから余計にどきどきしてしまう。


「じゃ、じゃあわたしそろそろ帰るね・・・!」

「はあ?」


帰ろうと立ち上がろうとしたら孝介くんに怒られた。送ってくから絶対待ってろよ!そういって孝介くんは残りのおにぎりをかけ込んで急いで更衣室へと向かっていった。それから数分してわらわらと野球部のみんなが着替え終わって出てきた。数名に名前を覚えてもらえたみたいで苗字さんじゃーね!と声をかけてもらえたことに心がほっこりした。


「さーて、かえんぞ」

「孝介くんありがとう」

「こんな時間に一人で帰るとかありえねーから」

「ご、ごめん」

「後ろ乗って」


方向一緒なんだからさ一緒に帰らせろよ、とわたしに背中を向けたまま少し恥じらいながらいう孝介くんにどくんと胸が高鳴るのが分かった。どうしよう。わたし、もうとっくに好きな気持ちを隠すのも無理なくらい孝介くんが好きだ。けどまだ友情か愛情か選べるほどわたしはまだまだ大人になんか成りきれなくてどうしようもない気持ちだけがぐるぐるとわたしの中を渦くまっていた。ごめんねとぼそっと呟いて自転車の荷台に跨がりこの気持ちを噛み締めた。