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初めて田島くんと出会ったのは私が2年生になって数ヶ月経った頃だった。同じクラスの一人が転校することになって、みんなで寄せ書きを書こうという話になりせっかくだから留年した浜田にも書いてもらおうと代表でわたしがお昼に1年9組に出向くこととなった。


「すみません、浜田くん居ますか?」


躊躇うことなくドアを開けてそう聞くと、お目当ての浜田は丁度窓際で友達と固まってお昼を食べてた。


「あれ、苗字久しぶり〜!」

「久しぶり〜!ちょっと入るね」

「どうした?」

「実は竹下が転校することになってさ、寄せ書き書いて欲しくて」

「え!まじかよ〜、寂しくなるな」

「大体浜田もなに留年してんのよ、2年生になったら居ないからびっくりしたんだけど!」

「でへへ・・・」


そんな話をしていると浜田の横からチカチカ目を輝かせて見てくる男の子がいた。どことなく居心地も悪かったので初めまして、と挨拶をする。


「苗字名前です。浜田の元クラスメイトです」

「はいはーい!俺は田島悠一郎!!」

「泉孝介っす、こいつは三橋」

「み、みは、し・・・レン、です」

「こいつらみーんな野球部なんだ」

「噂の新設の!みんな頑張ってね!じゃ、浜田それ明日のお昼にまた取り来るから書いておいてね」

「了解〜」


次の日昼休みに取りにもう一度9組の教室に来てみたけど、浜田の姿はどこにもなかった。忘れちゃったかな?と思って教室を後にしようとしたら、待って!!と中からでっかい声が聞こえて誰に言ってるか分からなかったもののその大きさに思わず立ち止まってしまった。


「名前センパ〜イ!!!」


あれ、わたしに言ってたのか。と反対側をむいていたつま先をもう一度教室の方へと向けるとそこには田島くんが居た。


「これ!浜田は急用できたみたいで俺が頼まれました」

「ありがとう〜!助かりました」

「俺的にはまた名前センパイと喋れてラッキーみたいなところあったから大丈夫です!」

「へ・・・?」


聞き間違いか?いやそんなわけない。わたしと喋れてラッキーって一体全体どういう意図でいっているのか。けどキラキラした目こんなに笑顔を向けられたら別にどんな意味であろうと悪い気はしないな、なんて思ってしまう。可愛い後輩に懐かれた、とこの時はまだ思ってた。それからというもの田島くんとどこかですれ違う度ぶんぶん手を振ってくれたり気さくに話しかけてくれて田島くんはすごく話しやすい子でもあったから仲のいい関係になっていった。

夏、浜田が野球部の応援団をやるに当たって、チアも探してるんだよねとわたしに相談をしてきた。


「苗字やってくれない?!」

「やれるわけないじゃん!!!」

「苗字がやってくれたら田島も喜ぶ」

「なんで田島くんオンリーなのよ」

「だぁって田島が1番苗字に懐いてんだもん」

「チアは無理だけど応援ならいくよ」

「それはそれで嬉しいけどさぁ」


しょうがない越智に頼むかぁなんてぶつぶつ言ってる浜田には悪いけど万年帰宅部で人前に晒せるような足をしてないわたしはお断り一択である。そんな会話を繰り広げてたら奥の方から体育終わりの田島くんたちが見えた。ぱちりと目が合った瞬間田島くんがわたしの名前を叫びながらダッシュしてくるのが見えた。


「名前せんぱ〜〜〜い!!!」


前にも聞き覚えのあるバカでかい声でわたしの名前を呼ばれ咄嗟に浜田の後ろにさっと隠れる。泉くんたちは遠くの方で俺ら先行ってるからな〜といってしまった。


「恥ずかしいからもっと声落として」

「ちょっとなんで浜田の後ろにかくれるんですか」

「勢いすごすぎてそのまま来られたらえらいことになりそうだったから」

「ハハ、たしかに田島はパワフルだからなあ」

「それより二人で何喋ってたの?」

「苗字にチア頼んでたんだけど断られた」

「え?!名前先輩のチア絶対みたい!!!」

「チアってのはスタイルいい人がやるものなの」

「名前先輩充分スタイルいいのにぃ」


そんな小動物みたいに悲しい顔したってやれないものはやれない。


「その代わり、応援にはいけるよ」

「まじすか!!!俺めっちゃがんばります!!!」


夏、田島くんの宣言通り頑張って勝ち進んだ西浦は桐青高校にも勝ってしまった。新設野球部の快挙だ。わたしは初めて学校内じゃなく野球をしている姿の田島くんをみて野球初心者のわたしでもわかるくらい田島くんはすごかった。浜田いわく、中学時代でも名が知れた子だったらしい。応援ありがとうございました!!とグラウンドからお礼をする選手たちに惜しみなく拍手を送っていると田島くんとぱちりと目が合っておっきいブイサインを掲げてくれたのには僅かながら心臓がどくんと跳ねた気がした。









3年生になり、教室の位置も変わったからか前みたいに田島くんたちとしょっちゅうすれ違うことも無くなったがわたしのことを見かければかけよってきてくれる。あの夏の試合をみて以来なんだか田島くんを見ていると少しだけどきどきしてしまう自分がいた。それを友達に相談すると、それってその後輩のこと好きなんじゃないの?と、一言。久しく好きな人なんて居なかったわたしはそうなのかな・・・と芽生え始めた恋心にそわそわしてしまう反面、わたしは田島くんより年上だしなにより今年はもう高校卒業のタイミングである。わたしはもう2年生の時から県内ではあるが、少しはずれた位置の大学に進学しようと思っていた。


「どっちにしろ、この気持ちは伝えられないな」

「なんの話ですか?」

「ひゃ?!」


突然後ろから声をかけられて思わず自販機でお茶を買おうとしていたのにびっくりしたはずみで炭酸ジュースを押してしまっていた。振り向くとそこには田島くんが居て、呑気にちわーっす!と挨拶してくれた。


「これあげる」

「え、のまないんですか?」

「わたし炭酸苦手だから」

「く〜!勿体なくて飲めないです!!!」

「今すぐ飲んで!」


わたしもお茶を買い直してながれでそのままベンチに腰掛けて二人で話すこととなった。なんだか少し緊張する気持ちを抑えてお茶をごくごくと飲む。


「あの、」

「どうした?」

「やっぱり俺隠し事とか下手なんで単刀直入に言っちゃうんですけど」

「うん」

「俺、名前先輩がすきです。薄々、気付いてたかもしれないですけど」

「へ、・・・あ、え・・・?」

「はじめて、教室にきたときから一目惚れで」


突然の告白にびっくりしてペットボトルのふたをコロコロと落としてしまった。落ちましたよ?!なんて拾ってくれる田島くんの声なんかあまり入ってこず、ぶわあと顔に熱が集まるのが分かった。いや気付いてなかったわけではないけど勘違いするほどのことがあったわけでもない。ただ好かれてるなあの認識で居たからまさか田島くんがわたしのこと好きでいてくれてるなんて思わなかったし、そんなに前から好きでいてくれたなんて。


「変なタイミングだけど、なかなか二人になることも無いしもうすぐ名前先輩卒業しちゃうし」

「そつ、ぎょう」

「名前先輩は俺の事、どう思ってますか?」


まっすぐ見つめられて心臓はこれでもかって位どきどきしてる。田島くんと知り合ってから一年くらい経つけどほんとに田島くんは良い子だしかっこいい。そんな子とわたしが両思いなんて今すぐ抱きしめたいくらい嬉しい。けど、言わなきゃいけないことがある。田島くんが真剣に向き合ってくれるならわたしもこたえないと失礼だ。


「・・・あのね、わたし県内ではあるんだけど浦和からだいぶ離れた大学に進学したいの。だからもし付き合っても、離れ離れになっちゃうんだよね」

「・・・それって、つまり」

「・・・うん」

「名前先輩も俺の事好きってことですか?!?!」

「え?!」


嬉しそうな顔でこっちをみる田島くんに呆気を取られて黙ってると、「え、違うんですか?」と眉を下げた。


「あの、えっと」

「とにかく、名前先輩は俺の事どう思ってるんですか?!」

「え、あの、その、・・・好き、です」


やったあ両思い!!!って横ではしゃいでる田島くんに頭が追いつかない。


「え、ねえ待ってさっきの話聞いてた?」

「遠距離になっちゃうかもってことですよね」

「そう。だから、」

「だからなんですか?俺って浮気しそうに見えますか?」

「・・・見えない」

「寂しくないように毎日連絡します!」

「ありがとう・・・?」

「とりあえずまだ卒業まで時間あるし、卒業したらしたで二人で問題乗り越えていけばいいじゃん!」


ニカッと眩しい笑顔で目がちかちかしそうになる。根拠の無い自信をこんなにも、自信満々に見せつけられたらもう断る理由なんてどこにもなくなっちゃったなあ。


「すぐ悩んじゃうような、こんなわたしだけど付き合ってくれる?」

「名前先輩がいい」


そういってがばぁっと覆いかぶさってきて思い切りぎゅうっと抱きしめられた。耳元で緊張したって囁くから、田島くんでも緊張することがあるなんて、しかもそれがわたしの事でって思ったらなんだかとても愛おしかった。


もう二度とこない夏を