「あれがニジイロカブトで、これはシロミツバチだ」
「うーん、おもしろい虫だね」
結局クルークのいう全長2m・マーブル模様の甘党魔物を図書室の動物辞典や魔物辞典、魔物というワードがつく本は片っ端から調べてみたものの、それらしいものは発見出来ずじまいだった。
最終手段として歩く辞書、もといあくまさんに聞いてみたものの、まるで手がかりゼロ。
あくまさんが分からないとなるとそうとう珍しい魔物なのかもしれない。
次の一手を無くしてしまった私は現場百遍という言葉を思い出し、森へ向かうことにした。が。
しかし、おにおんの妨害や広すぎる森に心が折れた私は途中シグに会い気づけばだらだらと過ごしている。
シグは次々と虫を見つけ私に見せてくれた。
「これが赤目チョウ、あとこれが……」
「シグっていつもこうやって虫と遊んでるの?」
なかなかこう、ほいほいと虫を発見できるのはスゴいと思う。
暇つぶしとも感動ともいえる疑問を彼にぶつけてみる。
彼はぴたりと手を止めてこちらを向いた。
「いつもじゃない」
「え、そうなんだ」
手で捕まえていた鮮やかな赤いチョウを空へ放した。
「むしを捕まえて見せるのはナマエが初めて」
「えー、意外だな。アミティとか他の子としないの?」
シグの眉間にシワが寄った。
「アミティ、あんまり虫トクイじゃない。メガネはうるさいから困る」
「あー、そっか確かにそうだね」
アミティは知らなかったけどクルークはなかなかの虫嫌い。
嫌いっていうよりは苦手、かな。
近づけただけで、うひゃーとかうきゃーとか言いつつも強がりながら後ろに退っていく。
あれはおもしろい。
が、虫好きなシグには不快らしい。
あ、そういえば。
「その前は心配してくれてありがとうね」
「?」
「朝会ったときに声かけてくれたでしょ?」
「ああ、あれか」
合点がいったようで浮かんでいた頭上の‘?’が消えた。
「シグはウワサをどこで聞いたの?やっぱりアミティ?」
「何のことだ?」
消えたと思った‘?’がまた帰ってきた。
シグは頭を掻き考えている。
「ほら、教室で騒いでたやつだよ」
「知らない」
「え、」
「ナマエが大変そうな顔してたから声かけただけ」
「……はは、キミらしいや」
「?」
シグらしい優しさに手がかりの掴めなさから来る疲れがちょっと和らいだ気がした。
「あ、マーブル模様の大きい……」
「!!?」
「虫だ〜」
「………………」
その虫を追いかけ森の奥へと消えていくシグを見送りつつ、またどや顔で疲れが帰ってきたのを感じた。
*20111214
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