佐々木くんと目を合わせるのもつらくて、ずるずるとそのまま放課後。

教室から逃げるように帰ろうとする私を見つけた佐々木くんがダッシュで追いかけてきた。
左右をキョロキョロと見渡し、逃げるしかないと分かった私も更にダッシュ!

1対1の追いかけっこが始まってしまった。というか佐々木くん滅茶苦茶に早くて開始30秒で既に終局を迎えそうな雰囲気に慌てる私はやけくそで何かないかと制服のポケットをまさぐった。

するとちゃりんと控えめな鈴の音、手には金属の冷たさを感じる。職員室に返すのを忘れていて書庫室の鍵だった。


鍵に貼られたラベルの"書庫室"の字を見るなり周りを見渡すと、ナイスタイミングで私は書庫室の前まで来ていた。
もう2メートルもなく迫った佐々木くん、もう息の続かない私。選択肢はない。


急ブレーキをかけ目の前止まり、鍵を差し込みドアを思いっきり開け放った。そして佐々木くんが来る前にドアを閉め、鍵を閉める。

すると息を荒げ、咳き込みながらも佐々木くんは何かを叫んでいるのが聞こえる。
ドアもどんどんと叩かれ揺れた。

どうしょうどうしょうと耳を塞いでいると、書庫室の暗がりから闇が広がるように"黒"としか形容し難い影が大きく揺れ、ぶくぶくと何かの形に肉付いた。

私の背丈を超えてゆらりと高く上がった影に耳を塞ぐのも忘れた私の耳にようやく佐々木くんの伝えたい言葉が聞こえた。


「駄目だよ!名前ちゃん!そこはオバケが出るんだ!」

依然目が離せない目の前の黒い影は暗がりから切り離れ、人型のような形になって私に怪しく笑っているような顔を近づけた。


「だれかいるの?女の子だとうれしいなー!」







学校七不思議といえばどこにでもあるもの。
どこにでも溢れているものなのだから当たり前にうちの学校にも存在し、校内に点在している。

全部は知らない(七不思議なるものは全て知ると不幸になるというし)。
今の今まで…つまるところ佐々木くんに言われるまで忘れていた七不思議の一つが只今私の目の前に現れてしまったのだ。


この薄暗い書庫室に1人で入ると、片思いをしたままに死んでしまった可哀想な生徒の霊に呪われるというもの。
そして目の前にてふわふわと浮かぶ黒い物体はまさにまさに霊、おばけ、非科学的な何か。


なんとか地面に膝をつくことはせずに済んだので、黒い影とコンタクトをとることにした。(相手に私がびびりまくっていることは悟られていないのは大きい)

さっき喋りかけてきたから話は出来るようだしね。



「…何で女の子だと嬉しいの?」


「んー?女の子がすきだからだよ」


「…単刀直入に言うけど、私を…呪うつもり?」


「えー?呪うってなんで?」


「…だっ、だってキミ書庫室の幽霊じゃないか」


「んー…そう呼ばれてはいるけど、呼ばれてるだけだからなぁ…
まあ、キミ風に言うなら"単刀直入に言って、書庫室の幽霊"じゃないから呪わないよ」


「ほっほんとに…?」


「だってぼく幽霊じゃないし」

良かったあああ!!
口には出さなかったものの、頭の中で安堵感が爆発した。
いや良かった。本当に良かった。呪われない上に幽霊じゃない。惨めな命乞いをすることにならなくて本当に良かった。


しかし幽霊じゃないならなんなんだろう…目の前のこの人(?)。
無遠慮にじろじろと見つめると首をかくりと傾げた後、「ああそうだね」と呟いた。


「僕はね、エコロっていうんだ。
ちなみに時の旅人」


「時の旅人?」


「んっとぼくもよくわかってないんだけど、時の旅人」


「ふむふむ。
あ、そうだ私の名前は」


「名前ちゃんでしょ?
さっき凄い声が聞こえたけど、あれキミの友達でしょ?
びっくりしたよ。まあそれで起きられたし、キミの名前も知れたんだけどね」


「あー…うん、」


そういえば、佐々木くんの声がまったくぱたりと止んでしまった。
静かな廊下に動かないドア。鍵を掛けたままだから入ってこれるわけないけど。
ちらちらとドアを見る。
…もう帰っちゃったのかな。

…………。



「………………」


「もしかしてさっきのって名前ちゃんの大切なひと?」


「っ!?」


思い切り振り返るとエコロはにやにやと目(と思われる部分)を細ませていた。


「やっぱりそうなんだ!」


「ちっ、違うよ!けっして違うよ!」


「いや、分かるよ。ぼくも好きなひとがいるから名前ちゃんが恋してるってわかる!」


「だから違うってばーっ!!」

うんうん分かるよ!と繰り返すエコロは腕組みしつつどこか嬉しそうにしきり頷く。

そして私の腕を掴むと掴んでいない方の手で奥を指し示し、「まあこんな狭いところに立ちっぱなしもあれだから」と奥へ連れていった。


本と本棚だらけの間を通り抜けると作業用だと思われる机と椅子がひとつ。
エコロは私を椅子に座らせると、自分はそこら辺に積んであった本を机まで移動させてそれに座った。


「悩めるおとめの名前ちゃんに朗報。
じつはぼく、この学校っていうのでもう一つ呼ばれてるものがあるんだよ!

それはね…!」





2012/06/10
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エコロ「続きはWebで!うそだよ!」


これを読むと、タイトルはアップされている為次回の内容が分かっちゃうのが残念というかお粗末な点ですね。

その部屋はおばけが出るの元ネタ…というか台詞は大好きな作品、某魔法陣をぐるぐる書く漫画から。


 
 
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