教室前廊下の放課後から。
その前のリトマス試験紙運びの時に仕事を頼んできていた先生にまたしても頼まれ事をされてしまった私は大きめの花瓶を運んでいた。水替えである。
ちなみに花は綺麗なスイートピー。
よいしょっと眼前が隠れる大きさの花瓶を抱え、水道へ急ぐ。なるべく早く物理部に向かいたいからである。
前方不注意で気持ち早足な私だったのだ、起こりうる事故だった。
花瓶は割れなかったものの、中身は宙を舞った。
「こんにちは、色々ありまして遅れました」
お馴染み物理部部室。
りんごちゃんにりすせんぱい、そして佐々木くんが見える。
そして、3人は目をまん丸にして驚いていた。
まあずぶ濡れの人が入ってきたらそりゃ驚くよね。
「どうしたんですか!?」
「なんでずぶ濡れなの!?」
「まあとりあえずあり合わせで申し訳ないがこのタオルで拭いて水気を落とそう。風邪を引いては大変だ」
りすくまさんが大きめのタオルを貸してくれたので、有り難く少し拭かせてもらった。
あんまり濡らしても悪いかと思って滴らなくなる程度の拭きで済ませたら、そんなんじゃ駄目だよ!と佐々木くんにわしゃわしゃとひっかきまわすように髪を丁寧に拭かれた。
落ち着いてきたので理由を話すことにしょう。
「頼まれて花瓶の水替えをしょうと持ち歩いていたら、衝突して浴びちゃいました」
「そりゃあまた災難でしたね…怪我はありませんか?」
「大丈夫、本当に濡れただけだから」
あはは、と笑って済ますとりんごちゃんは怪我がないなら良かった、しかしあまり芳しくないですねとコメントした。
芳しくないってなかなか出ないよね、難しいな。
そんな風にりんごちゃんと難しい会話を楽しんでいると佐々木くんが近づいてきた。
「誰とぶつかったの?」
「えーと、顔はみてないから分からないかな…
走ってたから多分運動部」
「何でぶつかったの?」
「前方不注意でかつ早足だったからかな」
「相手になにか言われなかった?」
「チラッて見ていなくなったから特に?」
ふーん、と考え込むように佐々木くんは下顎に手を添えた。
そして不意に顔をあげてニシャッとギザギザの歯を見せるように笑った。いきなり。
「ごめんね、理科科学とはまったく関係ないんだけど、紀元前2000年くらいの古バビロニア王国の王さまが作った法律なんだけど、」
いつもの話すペースより、より早めにどこか解説するよりかはぶつけるように話す佐々木くんの話はまくし立てるようにまだ続く。
「その王がハンムラビ王っていう王さまで作った法律はハンムラビ法っていうんだ。
それの概要が目には歯歯には死をって言うんだけど今そんな気分★」
目には歯歯には死を、のフレーズの瞬間後ろの窓から稲光、と同時に雷音が走った。
佐々木くんの顔の陰影が稲光でなんか怖いことになってた。
というか、そもそもとしてそのフレーズ自体怖い。
えーと……よくわからないけどもしかして佐々木くん怒ってるんだろうか。
そうでもないと何でそんな怖い話をするのか分からない。
そんな話をする佐々木くんも佐々木くんだけど、「それを言うなれば"目には目を、歯には歯を"ですけど」って訂正するりんごちゃんもりんごちゃんだよね。
笑顔で怖い話をし始めるお二人さんから離れ、りすくまさんの近くに寄るとりすくまさんは「今日は雷が落ちたな。二つの意味で」とかよくわからない意味深な言葉をダンディーな声で呟いた。
2012/05/09
--------------------------
佐々木くんご立腹。