校庭の桜が満開だ。
風に乗って舞う花弁が開けられていた窓からこの廊下に舞い落ちた。
桜色ってとても素敵だと思う。
そう思えるならきっと、
「このリトマス試験紙のピンクも綺麗だと思えるハズだ……!」
「え?」
先日入部していたことが発覚したこの物理部での最初の活動は、理科の先生に頼まれた理科道具の整理だった。
ぶっちゃけ雑務だった。
出オチかい?とよく分からない切り返しで聞き返す佐々木くんに、活動し始めて早々雑務という驚きを伝えてみたものの特に弁解する様子もなく何時も通りと応えてくれた。
「まあそういうのの方が活動としては多いからしょうがないよ★」
まあ文化部だしそんなものなんだろうな。
家庭科の部活に入った友達からよくよく破けたカーテンやら衣装やらを修繕させられるって聞いたような気がする。
「でも天気の良い日でこんなに桜が綺麗だったらリトマス試験紙運びより花見に行きたいよね」
「おやおや名前ちゃん風流だね★
でも僕としてはリトマス試験紙のピンクも綺麗だと思うよ」
ぴらりと一枚手に取ってくるくると丸める。
「えー、そうかなぁ。
私はどっちが酸性でどっちがアルカリ性か未だにハッキリしないから苦手なんだけど」
「ふむふむよく聞く悩みだね★
りすせんぱいだったら簡単すぎるってその場で立ち上がりそうな悩みだよ」
そう言われても私は理科があまり得意な分野じゃないし、二つ三つ選択肢があるのが逆に訳が分からなくなっちゃうのだ。
「そんな名前ちゃんに秘密テクニックを授けよう★」
人差し指を天井に差し向けて宙に描くように解説してくれる。
「"猿のお尻は真っ赤っか"」
「へ?」
「"猿"、ようするに"さ"で酸性、"真っ赤っか"はそのまま赤。
酸性は赤になるやつって覚えればいいから青紙から赤色が出るやつを酸性って覚えればいいんだよ★」
「おぉー、覚えやすそう!」
えっへんとでも言いたげな佐々木くんにありがとうと言えば、ユアウェルカムと言われた。
英語だった。
「佐々木くんって度々ヘンだよね」
なんというか言葉使いがね、なんとなく引っかかるんだよね。
「そうかな?でもこれが僕らしさだと思うんだよね★
あと思ったことを言ってるだけだよ」
「うーん…佐々木くんって天然?」
「それはどうだろうね★」
雑談しつつも理科準備室に到着したのでリトマス試験紙をしまいこみ鍵を閉めた。
名前ちゃんお疲れ、と労ってくれたので私も佐々木くんお疲れ様、と返したらまぐろだよっと返ってきた。
いやキミの名前はちゃんと知ってるんだけど。
仕事という名の雑務も終えてまたまた廊下。
理科の先生からはご褒美に桜の飴を貰ったりした。度々桜に縁のある日のようだ。
「うーん、桜かあ」
「まあまあ美味しいかな?」
「うんまあまあだね★
あっ!」
「えっどうかしたの?!」
咄嗟の声にもむもむと口で転がしていた飴玉を歯で砕いてしまった。
佐々木くんはあっ、あっ、と声をあげ続けている。
「凄いこと思いついたっていうか発見しちゃった…★」
「え?なになに!?」
さっきのリトマス試験紙のことと言い、物理部部員であることと言い理系な佐々木くんの閃きは凄い発見なのであろうと思った私も自然と声が大きくなっていた。
「新学期の歌で一年生になったらって曲あるよね?」
「うんうん!」
「あれで友達百人出来るかなって歌詞の後に、百人で食べたいな富士山の上でオニギリをってなるけどあれって、」
「うん?」
あれ?雲行きが怪しく……
「友達99人で自分1人なのか、自分が居ないのか分からないけど1人足りないよね★」
大変だ、新学期の楽しげな曲に闇を発見しちゃった!と楽しげに話す佐々木くんだった。
うん、限りなくどうでもいいよ佐々木くん。
そして解釈としては百人の友達と食べたいんだよね、それ。
少しヘンな子じゃなく大分ヘンな子と実感した瞬間。
2012/05/04
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リトマス試験紙の覚え方って色々あって楽しいですよね!
あと一年生になったらの話は男子が話しているのをそっとネタにさせてもらいました。
もしかしたら元ネタがあるのかもしれないですね。