たどり着いたその教室のドアを佐々木くんは躊躇いもなく開けた。
私も(手が解放されていないのでいた仕方なく)佐々木くんに続いて入室した。


見渡せば薬品だらけのガラス棚に、ポタリポタリと水の滴る水道(しかし佐々木くんがすぐ蛇口を締めてたのですぐ止まった)、たくさんの理系の文書を詰められた棚…などなどの間を通って、たくさんのビーカーや試験管、棚から引っ張り出されたのであろう文書の山だかりが広がる机で歩みを止めた。

もそもそと蠢く人影に佐々木くんはりすせんぱい、と声を掛ける。"りすせんぱい"と呼ばれた人影はもそりと顔を上げた。


「どうしたかね、まぐろくん」

「連れてきました★名前ちゃんです」


「おお、名字くんか。どうも、りすくまといいます」


「ど、どうも…」


なんだなんだこの空気は?と困っているとそう言えば何で連れてこられたのか教えられていないことを思い出した。
佐々木くんとりすくま…さん?は楽しげに会話を弾ませていてとても聞ける雰囲気でもなく…困った。


ゴポゴポコポポポ……


どうしょっかな、佐々木くんの手が離れている隙に帰ってしまおうか…


ゴポゴポ…シューシューブクク…


うーむ…


シューシューシュー!


……ていうか


「さっきからこの音はなんなの…ていうかコゲ臭っ」


「あっ!!」


「む?」

やかんを空焚きしちゃったときみたいな音と匂いが充満しているようでどこからなのかと首を捻っていると佐々木くんはまずい、と一言、またしても私の腕(あれ?さっきは手だっけ?)を掴みダッシュした。


「どうしたの佐々木くん」

「バクハツしちゃうから離れるよ?あとまぐろだよ★」


バクハツするらしいのに危機感を感じない佐々木くんの声だけど、本気でマズいのかと本気っぽいダッシュに引きずられつつ思った。

教室から出、勢い込んでドアを閉めるとぼふん、と間抜けな音がした。更にコゲ臭い匂いとりすくまさんの実験失敗だ、という声がした。

「よくバクハツするから気をつけないとなんだよね★」

ふう、やれやれとまるで日常会話であるようなその口調にまた困惑するのだった。日常茶飯事なのか、爆発。






閑話休題。
まだ少し煙い物理部部室にて、再開。


「まあなんで名前ちゃんを連れてきたかっていうとね、単刀直入にいうと名前ちゃんが物理部の幽霊部員だからなんだよね」

「うむ。まあ正しく言えば私は科学部なのだがね」


「ごめんね、ちょっと理解が追いつかない」


私は放課後ときめく帰宅部だ。
部活なんて何一つ入っていないはず。ましてや物理部なんて…入る気もなかったはず…だ。
それなのに幽霊ってのは分からない。一回も来たことも入部すらしてないんだから、幽霊レベルじゃないだろ。成仏?


「これ見てみて★」


「これは…入部届?」

私の字で、私の家の判が押された物理部入部届。
当たり前だけど、提出した覚えもない。


「僕らもちゃんとは知らないんだけど、名前ちゃん仮入部期間中にこの部に来たでしょ?」


「え、えーと、確かそうだったかな」


確かに去年、友達に誘われて仮入部期間に見学には来た。
結局は私も友達も入部はしなかったけど。

「その時に確か入部はしなくても名前を控えるために名前を書いて貰ったと思うんだけど」

ていうか僕もそうだったんだけど、と続ける。

「その時に名前ちゃんは間違えて入部届けに名前を書いてしまったみたいなんだ★」



「そんな馬鹿な!!」


そんな漫画みたいなこと起こるか!という私のツッコミに佐々木くんはいや?事実は小説より奇なりだよ★と続ける。


「それを気がつかずに顧問に提出してしまった前三年生の先輩と、判子を押していないから親切心で名前ちゃん家の判子のコピーで間に合わせてくれた顧問の先生のファインプレーの賜物だよ★」


「そんなファインプレー有り得ないでしょ…!」


うぐぐぐ、と受け入れがたい事実(?)に頭を抱えていると、りすくまさんが私の前に立ちぺこりと頭を下げた。


「名字くん…いや名前くん、これからよろしく頼む。
そしてこれからは科学部、物理部共に理科の可能性を広げようではないか」


「クラスも一緒になったことだし、よろしくね名前ちゃん。」


りすくまさんから握手を求められ、キラキラとした雰囲気を醸し出す佐々木くんを前に断りを入れる技量など持ち合わせていない私だった。


「よ、よろしく?」



こうして私は実に胡散臭い経緯と実にヘンなクラスメイト(そして今ではクラブメイト)に押されて物理部の仲間入りをしたのだった。




2012/04/29
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パーティー:物理部に 名前が なかまになった!▽

 
 
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