また辛気臭い話になるけど、この学校には学校七不思議とはまたケースが違った"人有らざるもの"が願いを叶えてくれるという都市伝説チックなものがあるらしい。
その名も"学校お悩み解決お黒さま"。ネーミングセンスのなさは怪人赤マントとか口裂け女やらと似通うところはある気がしなくもない。

で、その"お黒さま"とやらが…

「ぼくなんだよね〜!」


目の前の黒い人(?)エコロなんだとか。

書庫室のおばけでもありお黒さまでもある、要するに都市伝説的なのの二つを占めているってどんなだよ。まさに事実は小説より奇なり。

自称旅人なのにお悩み解決なんてしてていいのかっていう疑問はぐっと飲み込んだ。


「ほんとはあんまり人の目の前にでるのは良くないって言われてるんだけどね、こまってる人をほっとくのはあれかなってちょびちょび助けてたらそんな噂がながれちゃったんだよね。
それに…」


「それに?」


「ほめてくれたり、心配してくれる子がいるからついついやっちゃうんだよね」


「それってさっき言ってた好きな子?」


「うん!可愛いしかっこいいしとっても頭良いんだよ!」


「ふうん」


足をぱたぱた揺らしながら楽しそうにするエコロを見ていると、ヘンな雑学を語ってくれる時の楽しそうな佐々木くんを思い出してもやもやする。

怒ってるかな…ていうか昨日から話していないや。


「名前ちゃん」


「うん?」


「そろそろ名前ちゃんが名前ちゃんのこと話すばんだよ」


「私は…とくにないよ」


「なにをいまさら!さっきからチラチラチラチラドアをきにしてるし、こんなところに逃げ込むような事態なのに"とくに何もない"で済ませるのは許さないよ!」


「何気によく見てるね」


なんだかノリノリだなお黒さま。
茶化すようにその話題から逸らそうとすると、エコロはずずいっと顔を近づけて「ぼくは仮にもお悩み解決でやってるんだからプライドが許さないの!」となんか怒られた。ぷんすかいってる。


「シャイだなー名前ちゃんはー、恥ずかしいのは分かるけど話して楽になっちゃいなよ!ほらほら!」


「だってあれだよ、プライバシーだからね、個人情報だからね」


「キミだって女の子なんだから友達と恋バナくらいするでしょ、その感覚でちょちょいと話しちゃいなよ!ほらー恋バナー!はい!」


「…恋バナー」


断固として話さない私に腕組みしてエコロは困ったちゃんだなーと呟く。そう言われましても、ね。

そしてまた接近してきたエコロの顔はなんだか穏やか。声色もふざけているものではなくちゃんとした、芯の通った声だった。


「まあ事情が事情ならそんなに無理はさせられないけど、名前ちゃん自身が話したら少しは楽になるんじゃない?」


「…何をいきなり真面目になってるのさ」


絆された私も私だけどさ。


「まあほら恋バナは楽しいからね!さあする気になったでしょ!」


ほらほら、と勧めるエコロに確かに少しくらいなら…とその気になっていた私はまんまと乗せられていた。





かくかくしかじか。
少し控えめに話すつもりがエコロは要所要所で質問を挟んでくるのでまったく控えめにならなかった。そして大部分を語る結果になってしまったのだった。
まだ個人名とかの個人情報が漏れなかっただけ僥倖なのかな。

エコロはにやにやと笑う。


「それはね、恋だよ名前ちゃん!」


「そう言われても今の話のどこに恋の要素があったのかわかりかねるよ」


ちっちっちっ、そういわないで聞いてね!しつもんからして行くよ!人差し指(?)を揺らしエコロは言う。


「なんで名前ちゃんはその人から逃げたの?」


「……気まずかったから」


「なんで気まずいの?」


「ハグされたときの動悸息切れとか顔の熱とかが帰ってきそうになるし、それを見られたくないから…かな。
よくわからないんだ」


「じゃあさ、もうその人なんかほっておいて他の人と仲良くなりなよ!そんなに多くはないけど僕のまわりの子なら紹介してあげるよ?」


え?
私の驚きを気にする様子もなくエコロは続ける。


「そうだよ!だってすごい変人みたいだし諦めて帰っちゃうような薄情者でしょ?」


「それは違うよ…!!」


そして私は私の中で何か熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
何故私はこんなに熱くなっているのかもわからないままに続ける。



「確かにヘンだけど私はそのヘンさが面白いと思うし、私が一方的に鍵を閉めたんだから薄情者なんかじゃないよ!
逆に佐々木くんは避けたり逃げたりしたのにわざわざ追いかけてきてくれて、お化けが出るよって心配までしてくれたんだから薄情者じゃないよ…!」


顔も体も気持ちも火照った私にエコロはごめん嘘嘘と手を大袈裟に振った。


「ごめんごめん、もういいよ。ちょっと名前ちゃん試したんだ。
だからね、そういうことだよ」

「……へ?」


「だから、名前ちゃんがその人をすきってコトだよ」


頭に届くまで数秒かかった。
そして直ぐに言葉が出なかった私はぶんぶんと頭を振るしか出来ない。

体も気持ちの火照りは覚めたのに顔の火照りだけは冷めない私にエコロは呆れた様子でやれやれと手を肩側で反らせた。


「往生際がわるいなぁー。
じゃあさ、逆にその人のすきじゃない理由があるの?」


もう首は振れなかった。






2012/06/17


 
 
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