「せんぱいせんぱい」

「なんだね、ナマエくん」


「せんぱいは何年ほど経ったら私を忘れますか」


「………ナマエくん?」



明るい口調で何を発するのかと思えばナマエくんはとんと暗いものを吐いた。思考するもわたしにはナマエくんの考えを理解出来ない。むむむと考え込む間にナマエくんはぱっと顔の色を(無理やりといった風に)明るくして訂正する。身振り手振りをいれながら。


「あ、ただの興味本位ですからそんなに考え混まないで下さい!すいません対した意味はないんですよ!」


正直言って痛々しいほどのごまかし方だった。ふっと目に一瞬寂しい光を灯すナマエくんをただひたすらに眺めるしか出来ないのを歯がゆく思う。


「ナマエくん、」


「りすくませんぱい、私もう帰りますね。今日もありがとうございました、さようなら」


ぺこりと頭を下げ部室から去ろうとするナマエくんの腕を気づいたら掴んでいた。細くて小さい腕。何故掴んだのかといえば今捕まえなければナマエくんがもう二度と会えないところまで行ってしまうような気がしたからだった。きょとんとするナマエくんを目の前にわたしは慎重に言葉を選ぶ。

「まずナマエくんはわたしの大切な後輩でありそれ以上の存在であるのだから、わたしを嫌いでないのならそこは誇って良いことだ」

「そして残念だがナマエくんを忘れてしまうことはもうこの人生において一生ないだろう」

ナマエくんの眉がくにゃりと歪む。形の良い唇がわなわなと震える。小さい小さいナマエくんは今正に全身で不安を表現していた。


「変なことを言うが、わたしはいまナマエくんが何処かに行ってしまうような気がしているんだ。だから今言ってしまうよ」


ナマエくんはわたしを見上げて次の言葉を待っていた。否定はしないのか言葉を敢えて出さないのかわたしには分からない。でもナマエくんはきっと消えてなくなることはないはずだ。


「どんな遠くに行っても会えなくともそれでもナマエくんが笑えているならそれでいい。
でも笑えなくなったり、ふと何か言いたいのに言える人がいなかったりとか簡単で下らないことでもいい」


「いつでも気軽に帰ってきなさい」


吃驚しつつも笑いも泣きもしないのは素直になれないナマエくんの最後の意地っ張りだと知っている。小さい声ではあるが返事が聞こえたので手を離した。
自己満足とは分かっているがナマエくんに伝えられたことに安心した。心に響かなくとも頭の片隅に言葉が残ればそれでいい。傷つき易いのに意地っ張りな後輩の背中を見送って次に会える日を楽しみにすることにした。



*2013/1/2

♪からっぽのまにまに
色々ありますが 本当は無いかもなんですが 

 



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