「はやくオトナになりたいわ」

ぽつり。何時ものようにナマエの隣のフェーリは呟いた。いつだって理由は同じでも何で?とナマエは聞く。それがお決まりなのだ。


「だってレムレスせんぱいはもう半分くらいはオトナなのよ、なのにアタシはまだまだ……こんなんじゃいつまでたっても釣り合わないわ」

「レムレスせんぱいとフェーリはそのままでもお似合いだよ?」

「…お世辞は要らないのよ」

「そんなことないよ、レムレスせんぱいはフェーリが側に居るときはフェーリのことを考えてるしフェーリはいつもレムレスせんぱいのこと考えてる。相思相愛って言うんじゃないの?」

こてんと首を傾けて言葉の意味がまだ分からないの様子でナマエは覚えたての言葉を使う。それに気づかずにフェーリは少し頬を赤らめてそっぽを向いた。

「…それでもまだまだなの」

「そっかあ」

机の上のレムレスが表紙の月刊クロマージュを弄るフェーリ。それを横目に見ながらナマエは気楽な声を出す。

「でも確かにオトナっていいな。今よりもずっと美味しいお菓子を食べれるし、もっといっぱい美味しいものがお腹に入れられるし、遊園地の身長制限にも引っかからないね」

「…ナマエは一番オトナから遠いと今星からウンメイが告げられたわ」

「ひどいやフェーリ!」

少女達の間で笑いが起こる。
2人はよくある光景でよくある友達でちょっとだけ背伸びをしたい。それだけの2人組だったのだ。いつまでも、とは行かないのだけれど。


***


「やっぱりはやくオトナになりたいわ」

また別の日。ワタシはいつもとおんなじ一言から話し始めた。ナマエはふうんと暗めに一言呟いてから何で?といつもと同じく聞いてきた。


「子供でいるのはもう充分なの。オトナになってもっと見えないものを見たいの」


「オトナってそんなに良いものだとフェーリは思うの?」

「なによ。なんでそんなコトを言うのよ」

今日に限ってナマエはやっぱり暗い。いや、暗いというよりはなにかを知ってしまったよう。ぼそりぼそりとナマエは小さく語り出す。


「私はオトナであることの良さを見つけられなくなっちゃった」


「何言ってるのかさっぱりだわ…どうしたのよ」


「だってオトナって痛いし怖いし、気持ち悪いよフェーリ。何でそうなるのかまったく分からないの」
「それに、フェーリがオトナになったらレムレスせんぱいと一緒になるんだよね。私まだ好きな人も見つけられないのに友達と遠くなっちゃうよ」


「ちょっと落ち着きなさいナマエ…レムレスせんぱいとウンメイを共にしたってアナタとは離れないわ。
…それにしたってどうしたのよ」

そっと星にウンメイを聞いてもナマエのウンメイはただ赤いと応えるだけで全然分からなかった。ナマエは暗い顔で続ける。


「私昨日からオトナになっちゃったの」


アタシは衝撃を受けた。ナマエは至って昨日と姿形は変わらないままなのに、どういうことなの。


「お母さんがナマエはオトナになったねって言ってたから。でも私フェーリが言うみたいに全然オトナじゃないのに身体はオトナなんだって。なんでかな、変だよね」

ぼんやりと笑ってみせるナマエの顔は大人びていてそして寂しい。アタシはただ何も言えない。何が言いたいのかも分からないだけじゃない。それだけじゃないけどそれがなんなのかも分からないの。これがワタシとナマエの違いだっていうのかしら?


「……変じゃないわ…ナマエはナマエだもの」

ナマエはほっとした顔をして見せたけど、こんなことしか言えないアタシはやっぱりコドモなのかしら。



大人なんかになりたくなかったの。
早くオトナになりたいの



*2013/1/2
 



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