水色と特別席
「リデルさんとクルークさんとラフィーナさんは今日はお休みです」
左右共に空席。
ああやっぱりか、なんて思った朝の先生からの連絡だった。
多分風邪を引いたんだろう。原因は至極簡単、まだちょっと肌寒さが残るこの季節に2人仲良く水にinしたからである。
詳しくは昨日3人で課題を片付ける為にクランデスターン屋敷に行った際に噴水の前で恒例の喧嘩、からのクルークが噴水に落ち、その落ちた時の水しぶきをラフィーナも浴びたというもの。そりゃ風邪も引くよな。
いつもは騒がしい左右がいないなんて今日は寂しくなるなぁ…なんて。
「ナマエさん、ナマエさんは両隣の人が居なくなってしまうので今日は特別に授業中はシグさんの隣に座って下さいね?」
「……え!?」
「シグさんの隣の席のリデルさんが今日は休みなので、シグさんの隣に座って下さいね?いいですか?」
「はっ…はい」
なっ…なん…だと…?
あの腹黒っ子の隣…?!
無理だ何故だ駄目だもう帰りたくなってきたどうしょう!あああああ!…と脳内が大変パニクりつつシグの方へ視線を合わせると普通の反応。
先生が私たち2人を指名したためにクラス内の視線が集まるなかシグはアンテナをぴこぴこさせながら「よろしくな」と好感を持てる笑顔。
あれ?いいかんじだ。
腹黒は私の勘違いだったのかな。
先生の話が終わったので勉強道具をリデルの席に運び、席に座った。隣のシグによろしくね、なんて言ったりしていつもとは違う席にわくわくしていたのは事実。
そしてシグは私と視線を合わせると口元をにやりと歪ませた。
さっきのとは真逆のわっるい笑顔だった。
えっ。
* * * *
「どうかしましたかアミティさん?」
「……せ、先生教科書忘れちゃいました…」
「じゃあタルタルさんに見せてもらって下さいね」
「…はーい!」
「………………」
「………………」
「教科書わすれた」
「…机に乗ってるのは教科書とは言わないのかな?」
「教科書わすれた」
「今机の中にしまったの教科書だよね」
「みせて」
「だから教科書あるじゃんか」
「…………………」
「わかった!わかったよ!」
無言の圧力。
そしてシグが静かに机をぴったりとくっつけてきたので仕方なく教科書を真ん中に置き、広げた。
私の教科書に何を感じるかは知らないけど教科書があるのにわざわざ人を見せてもらって果たして楽しいんだろうか…。
謎だ。
「見づらい」
「(じゃあ自分の見ればいいのに)」
「なにか?」
「いや別に」
「…しょうがない」
しょうがないとぽつりと呟くと椅子を横にずらし、くっつきあった机のようにぴったりと私にくっついた。
「えっ…!近っ!」
「だって見づらいからしょうがない」
なんでくっついた!?
そしてわざとなのかアンテナを動かすものだからすごく、凄く!当たる肌がくすぐったくて堪らない!
「ちょっ、ちょっと…!くすぐったっ……!」
「顔赤いけどだいじょうぶ?」
「だ い じ ょ う ぶ じ ゃ な い !」
我慢するために下を向いて拳を握りしめていたら、キーコーンカーンコーン、と授業終了の鈴の音。先生の挨拶を合図に休み時間。
私は誰よりも速く教室から逃げ出した。
早く2人が戻ってくることを祈りつつ、やっぱりシグは要注意人物だと再確認したのだった。
「やっぱりナマエおもしろい」
シグは他生徒が見ていない隙にくすくすと笑っていた。
*2012/3/29
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