本当のことなのに。
確かに私はちょっとイタズラしたりしたけど殆どが本当なのに。
涎を垂らした何にも化ける黒い影とか、両目同じ色をしていない少年とか、黒猫が喋ったとか…みんなは嘘だって言ったけどみんな本当のことだ。
私は何一つ嘘をついてない。
それなのに大人は私を嘘つき呼ばわりする。寂しいからと嘘をつくかまってちゃんに仕立てあげて我が子から遠ざけた。
誰も相手にしてくれなくなってしまったのは寂しいけど、最近は1人私と遊んでくれる子がいる。
「やあ、ナマエ。今日も1人かい?」
「まあね、嘘つきに大切な大切な我が子を遊ばせるような親はいないからね」
まあそりゃあそうだろうね、と私の隣に腰掛ける少年はクルークという。此処に住んでいるらしいけど最近になって初めて会った。
私が嘘つきと呼ばれていても接してくれるただ1人の友人と呼べる人物だった。
「今日は何の嘘をついたんだい?」
「嘘じゃないから言わない」
「分かった分かった。嘘って言わないから教えてよ」
「しょうがないなぁ…」
しょうがないなんて嘘。
一番しょうがないのは私だ。せっかく会ってくれるのになかなかにひねくれてしまうのだから。
今日話したのは赤いマントをつけた赤毛の綺麗な人の話。
みんなそんな人なんか見たことないと言ったけどクルークはきちんと聞いてくれた。
「ふーん、まあこの世界は広いからそんな真っ赤なやつの1人や2人いてもヘンじゃあないんじゃないかな」
「そう言ってくれるのはクルークだけだよ」
そうだね!キミと付き合えるのはまあ僕くらいのもんだよね、と自慢気に言うクルークを調子乗りすぎ、とはたいた。
2人の間に笑いが生まれてはじける。こんな楽しいのはクルークとだけだ。
「そういえばさ、今日は星が綺麗に見える日なんだけどよければまた見にこないかい?」
前に1回星のよく見える村の外れに連れて行ってもらったことがある。
そこはクルークの特等席らしく、誰も居なくて静かでそんな所で2人で寝っ転がって星を見続けた。
クルークは星にとても詳しくて色々教えてくれてとっても楽しかったのだ。
「え、本当に?じゃあ見に行こうかな!また流れ星とか見れるといいなぁ」
「今日は星が綺麗ってだけだから流れ星が見えるかどうかは分からないな。けど、空気は澄んでるから遠くまで見えるはずさ」
またあの綺麗な空と星座の話を聴けると思うととてもワクワクした。けど、そのワクワクとは裏腹に私は良くない噂を思い出してしまった。
「あ、でも止めておこうかな……」
「え、何で?」
「最近この辺で狼が出るんだって。そうしたらやっぱり夜にうろつくのは危ないかも」
狼が出た。
具体的にどうこう被害を与えられた訳ではないけどやっぱり獣とヒトは分かち合えない。
それに、やっぱり少し、怖い。
「……そう、か」
「ごめんね、狼の噂を聞かなくなったらまた誘ってくれると嬉しいな」
「……そしたら、もうナマエとは遊べなくなっちゃうよ」
「え?今何て?」
「……いや何でもない。
じゃあね、また来るよ」
見たことないような暗い顔をしてゆっくりと帰っていってしまった。いつもちらりと見える犬歯も噛み締めるように唇に隠れていた。
狼が出なかったら一緒に出かけられたのにな。そんな風に思ってその日は家に帰った。
そしてしばらくの間クルークは来なかった。
2012/03/01
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わざわざナマエさんのことを思ってやってきていた狼クルークの話でした。
上手く表現出来ませんでしたが文中であ、こいつ狼だったんだ!と思っていただけたら幸いです^^
ちなみに、
星が綺麗に見える場所や星座を知っていたのは外に住む狼だからこそとかいうのを考えてました。