※そのまま猫でも読めますが、イメージは擬人化している猫、といった感じです。
私は猫。
粉引き職人に拾われてたったの一年、彼は亡くなり彼の三男に遺産として引き取られることになりました。
長男は粉引き機、次男はロバを。
明らかに三男だけ遺産としてはあっけなく、猫なんて食ってしまえば終わりと食われてしまうかもしれない。
相続される前に知恵を働かせ三男をこの国でいちばん偉い立場につかせる計画を考案したのです。
そして今日、三男に引き取られたのですが……
「飼い主さま、私は貴方をこの国でいちばん偉い立場につかすことが出来ますよ」
「飼い主さまじゃなくてシグ」
「え、」
「え、じゃなくてシグ」
「えっと、……」
「シグ」
「………シグさん」
「よし。
…で何だっけ?」
「(………何なのでしょうこの人)」
なんだか変な人間です。
シグさん、と呼ぶと満足そうに頷く私の新しい飼い主は相当変わっているようです。
「えっと、シグさん私は貴方をこの国でいちばん偉い立場につかすことが出来ますと言いました」
「どういうこと?」
「色々することがありますが袋と長靴さえくれれば、シグさんをこの国のお姫さまと結ばれるように致す、というところでしょうか」
「……うーん」
「大丈夫です!高価なものじゃなくいちばん安いボロのもので構わないので…!」
「そこじゃなくて」
「…え?」
「要するにナマエに長靴と袋をあげたら、お姫さまと結婚?」
「端的にはそうなります」
「じゃあ長靴と袋はあげない」
「えっ…!?」
「ナマエがいればいい」
ひょい、と抱き上げその腕を交差させて私を包みました。
人間の幼児程の大きさしかない私はすっぽりとシグさんの腕に収まってしまいます。
大きな手は、耳と耳の間あたりの頭をふわりふわりと撫でていきます。
「…猫は居るだけでは家鼠しか取れませんよ」
「ずっとナマエだけ欲しかった。
粉引きもロバも要らない、ナマエが居ればじゅうぶん」
とても優しく言い聞かせるその声に私はとても困ってしまいました。
「私は猫ですよ」
「ナマエがすき。関係ない」
手を優しく握り、頬に唇を落としてやんわりと笑う顔。
私の小さい心臓がいつも以上に激しく動いて煩くて仕様がありません。
その心臓が伝えているものが何か私は知ってしまっているので、尚更のこと煩いのです。
長靴も袋も渡さない
願わくばこのままで。
*20120101
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シグさん自身が猫を引き取りたいと言ったのだと思います。
長靴を履いた猫は物語自体が可愛いですよね。大好きです^^