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(悪眼鏡)

例えでもなく当たり前のこと、子供が悪いことをした後に誰かしらがその子供を叱るだろ?躾とか倫理とか教育とかなんでもいい。とりあえず子供がそれが悪いこと恥ずかしいことって理解出来ればいいんだ。
僕は成績優秀で子供の頃から出来た奴だったけど、怒られたことないなんて絶対ない。何かしらやらかして怒られた。つまみぐいやら汚い言葉遣いやらは人として恥じる行いだったからだ。そこで叱ってくれたからこそ僕はつまみぐいや汚い言葉遣いをしなくなった。恥ずべき行為と頭に叩きこめた。

子供の頃は倫理も常識もよくわからないから叱ってもらうことで理解する。今現在はもうそれは必要のないものであるし、そんな叱られるようなことはしない。だけど最近ちょっとよくわからない。決して僕が頭が悪いわけでもまだ分からないことがあるわけでもないんだ。ただちょっと疑問が湧いただけ。ただそれだけ。

分からないことっていうのは最近隣の席になった奴のこと。ちなみにナマエっていうんだけどそいつが何でかすごく腹立たしい。ぽやぽやのろのろしていて僕とはまるで正反対な奴だ。見ていると苛々するんだよ。授業中にノートをちらちらと覗いたら解答がまったくあっていなかったから馬鹿にしてやったのにありがとうとか言うんだ。嫌味じゃなく、普通に。しかもにっこり笑いながらだ。苛々する。しかもこいつ他の奴等にも見境なくへらへら笑うんだから本当に馬鹿だ。
僕みたいな嫌味言う奴にまで愛想振りまかなくてもいいだろ。頭可笑しいだろ。

苛々を物や人には当ててはいけないと学んでいたのでこの苛々はどこにも発散出来ずくすぶっている時期が若干続いたが、ある時に僕は名案を思いついた。あいつの物隠してやろう。盗むことはいけないことだけどこれは隠すだけ。いつか元に戻せばいい。あいつトロいから大丈夫。

まずはやたら持ち歩いてた水色のタオルを隠した。次は赤いシャーペン。次はピンクのアクセサリー。最近は確か黄色と緑色のなんか。僕は計画的なのでちゃんと自分のバックの中にしまっておいた。ナマエはといえば最初の内は無くしちゃったとかゆるゆる困ったように笑ってたけど最近はずっと青い顔をしていた。力無く笑う顔を見て僕はなんと思ったといえば初めてナマエに対して苛々を感じなかった。情けない顔なんていつもしてるけどちょっと違う。それと僕がしたことでナマエがあんなに顔色を変えるなんて楽しいにも程があるじゃないか。だってあんなにも僕を眼中にないみたいにクラス連中と同じ扱いしてたけど今は僕だけのせいであんな顔。ああ楽しいったらないね!そんなこんなで今日はちょっと手酷く筆箱でも隠してやろうかと放課後教室に足を運んだらナマエがいた。

自分の机周りを中心にくるくると見渡しながら歩き回っていた。多分無くなった物たちを探している。ふと目が合いナマエが口を開いた。


「あ、クルーク…ごめんね、邪魔だったでしょ。今避けるからね」


「別に。で、何してるのさ?」

「最近物をよく無くしちゃって…しかも貰い物ばっかり。凄く申し訳ないし無くしちゃったの失礼だから、みんながいない時に探してたんだ」


なんなんだろうこいつ。とんだ阿呆だな。盗られたと疑いもしないで自分の落ち度として探してるのか?聖人気取りもいい所だな。


「誰かに盗られたんじゃないの?」


久しぶりにナマエに対しての苛々とした感情が沸いてきた。隠したのは勿論僕だけど、まるで僕がやったんじゃないみたいに他に犯人がいるみたいに、ほらほらと問い詰めた。ナマエはぐっと口を閉めてから困った顔をして笑った。いつもの八の字だけど、楽しそうな笑い顔じゃなくて本気で困ってる顔だ。

「そういう考え方はあんまりしたくはないなあ。そう考えると学校の中にそういう困った人がいることになっちゃうし」


流石に人を疑って生活するのは疲れちゃうよ。駄目な奴がいるって考えるなら、そいつは自分だって考える方が楽でしょ。
まるで先生みたいに諭すナマエにやっぱり苛々した。考え方を押し付けられるのも嫌だけどそれ以上に何か苛々したのだ。


「馬鹿じゃないの」


「うん、馬鹿だなぁとはいつも思う。物無くすしクルークに言われないと色々気づかないし」

「そうじゃない。いい加減気づけよ」


いらいらいらいらいらいら。
ほんとうに頭可笑しいな。知らない振りしてるんじゃないかって位に今更になってもそんな考えを持ちだすんだな。
片手でバックを弄り、タオル、シャープペン、アクセサリー、ポプリ…ナマエのたいせつな物たちを掴んで床に落とした。水色と緑色はふわふわ落ちて、ピンクと赤はいい音を起てて落ちた。ナマエの目は大きく見開かれて、口は更にきゅっと閉まった。


「キミのをとったのは僕だよ」

「………っ、」


「キミの誰からも好かれようって態度と自分が我慢すればいいって考え方が腹立たしいんだ。困らせてやろうって思ったのに、おくびにも出しやしないし気づかないし」


ナマエは顔を真っ青にしながら少しずつ後退りした。バックを僕に見せないようにゆっくり手先で持つ。丸見えだけどね。
そのまま逃げようたって遅いと思うよ。丸見えだし震えてるしちらちら足元のそれ、どうしょうかって辛そうな顔で見る行動も全部丸分かり。
わざとノってやることにしてナマエの罵倒しながら後ろを向いた。僕の予想していた通りに、ナマエは教室から逃げようとした。だけど残念。腕を掴んでやって引きずり戻した。ひやりとした背徳感がずるずる背を通ってどうしょうもなく楽しい。
腕は放さないでぐっと距離を縮めて可哀想な顔のナマエを見る。楽しくて堪らない。自然と笑みがこぼれてしまい、にっこりしながらナマエを諭すように言ってやる。


「ナマエ、キミはひとつ間違いをしたんだよ。間違いをね、悪いことをした奴は正さなきゃいけなかったんだ。言わないであげるのは優しさじゃない。
さっき馬鹿でも最低でも何でも僕に言えば良かったのに」


「……ひっ、ぐ」


ひゅっと空気で喉を鳴らしたナマエ。僕は空いている片手を顔の半分に押し当ててわきでる笑いを隠した。ほんとうに馬鹿だなあ、馬鹿だなあ。そんな風にしてたらこうやってナマエに悪さするの楽しくなってきちゃうじゃないか。

更に僕に対して恐れを感じたらしいナマエの怯えた顔を見下ろして、両手を頬に添えた。いいね、その顔。今僕のことしか考えてないでしょ。


「その顔いいね。さっき僕はキミが嫌いって言ったけど半分前言撤回する、僕キミのその怯えた顔嫌いじゃない。それに愉しい」


あと今知ったんだけど、可哀想と可愛いって似ているの字面だけじゃないんだね。今ナマエ最高に可哀想で可愛い。
別にキスするわけでもなくただ何気なくにナマエの耳に口を寄せた。


「ただ、誰かにこのこと言ったらどうなるかなんてこと、お馬鹿さんのナマエにだって言わなくても分かるよね?」


泣きそうなナマエを尻目にもう既にどうやってこれから苛めていこうかなって思うなんて僕はなんて策士なんだろう。





2012/08/22
性悪眼鏡を目指したら好きなのに苛めちゃう系男子の極悪verみたいになった。

極悪眼鏡に好かれて夜も眠れない



 
 
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