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*現代パロディ




「「あ、」」


校内図を握りしめながら、長い廊下を歩いていたら知らない顔だらけの校内で懐かしい顔に会った。

その人は懐かしい緑色のカーディガンを羽織っていて、灰色の髪の毛を揺らしながら優しく笑った。ポケットをまさぐって取り出し現れたそれはちょこんと可愛くその人の手でピンク色を主張している。


「やあ、久し振りナマエちゃん。よく来たね、飴あるけどいる?」

レムレス先輩、みんなの憧れのその人だった。ちなみにピンク色とはイチゴではなくピーチである。



再会してすぐ気前よく案内してあげるよおいでと手を引かれ、一緒に見学させてもらっている。レムレス先輩はここはここ、あっちはあれと解説を交えてくれながら上手く校内を歩き周ってくれた。

凄く分かりやすい上に丁寧だから、真面目に書いていたら学校から配布されていた用紙はすぐに埋まってしまった。説明は面白いのだけどどこか手持ち無沙汰な気持ちでさっき聞いた校内の説明や活動を反芻した。

ここは選ばれた人しかいないにしろ先輩たちはいきいきしていたし、部活もたくさんあった。選んだからには私にとっては、魅力を沢山に感じる素敵な所であるのだ。なのにも関わらず、先輩たちはそれを苦笑いしながら否定してしまうのだ。そんなことないよ、あれそれが酷いとか配慮が行き渡ってないとかで何かと負のイメージを押し付けてくる。
思い返せば見学会の前日に先生に「相手の学校としてはチャンスの場であるから絶対的に悪い所は隠してしまう。だから質問は生徒さんにする。何だかんだ言って文句は溜まるから色々教えでくれる」とか言ってたけど今更になって良くわかった。見学者側からは見えない部分。だけどやっぱり好きで決めただけあって寂しいし悲しい。あの先輩たちはこの学校嫌いなのかな。あの中に望んでここに来た人はいないんだろうか。


「それでね、ここは…ってナマエちゃん?」


「…………あっ、すいません!」


せっかくレムレス先輩が説明してくれていたのに長考してしまっていた。申し訳ない…。
そしてレムレス先輩はというと心配して此方を覗きこんできた。眉は八の字。


「飽きちゃったかな?ごめんね、ついつい話し込み過ぎちゃったね」


「あっ、いえ!すいませんつい考え事を…」


あ。やっちゃった、人が話しをしてくれていたってのに考え事してたってはっきり明言してしまった。失礼にも程がある。失礼千万。頭の中でたったちょっと前の自分への罵倒が飛び交い混乱していると、そうだねぇと明るい声。


「だって受験生だもんね。色々考えちゃうよね」


「え、ええ…まあ」


「遠慮しないでいいよ。僕もそうだったからね」


未だにすいませんすいませんと脳内平謝り中の私にレムレス先輩はにっこり笑って「僕でいいなら聞こうか?」と言うもんだから混乱中の私は「滅相もない十分です!」なんて言ってしまった。ら、「じゃあ話してみなよ?」なんて言われてしまった。嬉しいのだけど何ていいやら分からないから、ぐちゃぐちゃの脳内を掻き回してどうにか言葉を捻り出す。上手く伝わるのかなぁ。


「…この学校の人たちはこの学校を嫌いなんでしょうか?」


「驚いた。受験のこととはあんまり関係無かったんだね」


目が開いていたなら、目をしぱしぱまばたく風にぽかんとして呟いた。確かに変な考えだとは思う。
依然と私たちの居る廊下は人が通らなくて静かで、風が吹いて音が聞こえる位だ。ふわりとレムレス先輩の髪が舞う。先輩は少し考えてうーんと唸ってから話を続けた。

「嫌いな人も中には居るかもしれないけど、きっと殆ど嫌いじゃないと思うよ。
何でそう思ったの?」


「私はここは素敵だと思うのですが、それを言葉にすると先輩方はそんなことないよって悪い所を言いなさるので…寂しいなって」


「それって難しいよねぇ。でもその考え方いいと思う」

要するに愛のなる謙遜なんだと僕は考えてるよ。例えばね、と人差し指を上に向けながら先輩は続ける。


「みんな何だかんだいいつつも好きだからあれが駄目だこれが残念って言えるんだと思うんだ。そこが直ったらもっと良いなって思ってるってことだからね」


まあ中には文句を言うだけで何でもない人だっているけどね。そういう所、無難じゃないお菓子とかコアなファンを持つお菓子に似てると思うんだよね。言いながら怪しい色をしている棒つきキャンディをくるりと回す。

「難しく考えないで?要するに悪友みたいなものだよ」


「ますます良くわからないです…が、先輩の考えは嫌いじゃないです」


「そう?それはありがとう」


「大分すっきりしました。あと私、志望校ここにしょうと思います」


大分すっきりした。考え方が変わっただけだけどホントに。
元々ここにするつもりではいたけど益々意志が固まった。


「それは嬉しいな。ナマエちゃんが来てくれたら来年は賑やかになりそうだ」


ありがとうございます、頑張りますと意気込んだ私。すると肩をぽすぽすと軽く叩いて優しく笑って一言。やっぱり先輩は格好いい。


「うん、待ってるよ。ナマエちゃんならきっと大丈夫。
でもちょっと力み過ぎかな。まだまだ本番は遠いから無理し過ぎないでね」


応援してくれる人がいるから頑張れるってのもそうだけど待っててくれる人がいるのも動力源のひとつなんだなぁって思いながら、素敵な先輩の笑顔を頭に焼き付けた。





おまけ
「さっき僕は色々言う人とは違うみたいに言っちゃったけど、実は僕もちょっと不満があるんだ」

「どんなですか?(先輩が言うからには凄いことな気が…!)」

「授業中にお菓子を出しただけで怒られちゃうんだよね…まだ食べてもいないのに」

「うん…それを咎められない所を求めると、先輩はアメリカ辺りに行かなきゃいけないと思いますよ」



2012/08/17
Ganbare!Jukensei

 
 
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