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私の可愛くて格好いい恋人は愛情表現があんまり豊富じゃありませんでした。


過去形であるのはまあ、今はたくさんではないにしろ少なくはないってことでありなんかこう…テクニシャンっていうか、やんでれというかなんというか…まことに表現し辛いのである。
恋人である所のあやしいクルークさん(年齢不詳)は恥ずかしがり屋なのか表現方法が少ないのかはたまた別の何かの理由であんまり構っては来なかった。
私だって人間であるからして性欲だって当たり前に持ち合わせている。惚気ると、彼はものすんごく格好いい。あれな話、むらむらする時だって多々ある。そんな彼から抱き締めてもらったりとか……ちゅーしてもらったりとかして欲しいのだ。突き詰めて最後までとは言わないからいちゃいちゃして欲しい。

だがしかし冒頭で述べた通り、構ってくれない上にご丁寧にまるで割れ物のような扱いをしてくださるので私ははしたなくも自分からアプローチをしていた。
まず本を読んでいる彼の背中へいきなり抱きついてみたりとか頭撫でてみたりとか腰に手を回してみたりとかしてた。彼があまりにも顔を真っ赤にさせて恥ずかしがったり、お返しに頭を撫でたりしたから可愛くって仕様がなくてまたやったりした。物足りないと感じつつもまあまあ満足だったのだ。相手からしてもらえなくとも自分でやりたい分、充分な分だけ愛情をぶち当てていた。貰い過ぎて溢れたりあげすぎて重くならないように自然と出来ていたように思う。だって、貰い過ぎたり与え過ぎるともっともっとと欲しくなってしまうじゃないか。愛って麻薬みたいなものだと思うから。気をつけないと狂ってしまう。そう思っていた。



そんな時期が私にもありましたよ!!追想終了。感嘆符二つもつけちゃうくらい強調する。ええそりゃあもう。追想が終わったからには現在に移行するわけだが、勿体ぶって過去形連発しまくった訳がそこにあって語りづらい。

そもそも苦しい。後ろから抱き締めてくるあやクルさんが回してきた腕はまんまお腹であり、 しかもめちゃくちゃ力を込めてくるからだ。つらい。
私が野生動物に怖くないよ的な愛で包んでいたら、だんだんスキンシップをとってくれるようになったのだけどなんかちょっと違う気がする。最初は可愛げのあるものであったのに、暫くしてどす黒く変わった。そんな彼曰く、私のアプローチ件愛は軽くて他の人にも振る舞ってるものなんだろとのこと。そういう話をする時や考えで埋め尽くされた時の彼はとにかく私を腕の中に閉じ込めたがるのだ。ちなみにさっきからぎゅうぎゅうしてくるのはそれである。本当に現在、あやクルがかつての城主とやらでなくて良かったと思う。歯止めがきかなくなりつつあるから(あやクルだけが)楽しい楽しい地下室ライフになりかねない。小説とかの話だけだと思うだろうが今のあやクルならやりかねない。


「…ずっとこのまま閉じ込めておければ良いのだがな」

「流石に人間的な生活はしたいから嬉しくともこのままは辛い」


まあ…正直なところ嫉妬してくれるのも嬉しいいいんだけどそろそろ少しは緩めて欲しい。確かに軽いかもしれないけど私はキミしかいないんだぜ。なんてね。

結局黙って抱き締めという行為を続行するので気を紛らわすために本を読むことにした。ただ場所は一・二歩ほど歩いた先である。ぎりぎり手を伸ばしてもとれない位置にあるそれをどうにかしてとろうとしていたらひょいと本を奪われて、あやクル側の机に置かれた。もう届かない。

すい、と片手で髪を梳き始めた。しかしながらも力は緩まない。
仕様がない。本当仕様がないあやクルではあるけどそんなあやクルを結局は愛してやまない仕様がない私だ。さっきまで伸ばしていた背をゆっくりあやクルの方へと委ねた。あやクルはぴくりと身を一瞬震わせた後、また力を入れて抱きしめた。


ひとりは愛に狂い、ひとりは平常感覚が狂った。

なんだかんだ言って私も溢れんばかりの愛の中で狂っているひとりだ。だから結局幸せであるんだろう。




2012/08/04
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愛でられていたら足りなくなってむしろ自分から迫るようになったあやクルさん。

 
 
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