しとしとと女の涙のように降り続く雨にそろそろ晴れ間を望みたくなってくる頃の話。
雨は髪、衣服、荷物全てを濡らしてしまう。だからせっかくのデートといっても室内で済ませることになる。
まあいつも図書室だから同じようなものだけども。
目の前の彼はといえば、ジメジメしている。絶賛ジメジメフェアー中だ。
本棚から興味のある本を何冊か引っ張り出して彼の隣に座った。
そして本棚から引っ張り出してきていた本たちの中に魔物退治かなんかの物語があったからと思われる。彼がジメジメし始めたのは。ただの推測でしかないからよくは分からないけど。
「どうしたの?」
「…どうもしない」
「あ…もしかしてこれ?」
「……………」
例の本を手に取り見せると密かに眉に皺を寄せたが、またすぐにぷいと視線を逸らす。
心なしか顔も青い。
もしかして…あれか、トラウマスイッチを押しちゃったかな。
「もしかしてトラウマゾーンに侵入しちゃったかな」
「…お前は私を何だと思っている」
「世界に一つだけのあやしいクルーク」
「………話を展開させること自体が無駄だったか」
はあ、とさも呆れましたと疲れたように溜め息をつき片手で腹あてがう。
元気づけたくてやったのに馬鹿扱いされた私もそろそろジメジメが移りそうだし、それにずっとジメジメは流石に嫌なのだ。
彼が気に病むことが沢山あるのは、すべてとは行かないまでも知っている。
きっかけを作ってしまったのは私だけど終わったことをジメジメしても今を潰すだけだ。きっと否定してあげなきゃいけないんだな。そういうの。
私はすっと息を吸う。
「キミが落ち込むのもジメジメするのも分かるよ、梅雨だし、私だってようやく封印が解けて人を乗っ取ったらあんな嫌味眼鏡だったら確かにがっくりするよ!
だからといって今更うじうじしても仕様がないじゃん!」
励ましたかったのに思いっきり方向性がずれた。何故かクルークに集中砲火した。
本からぺらぺら周りを見回していた当の本人は驚愕している。ごめんよ、ちょっと言い過ぎた。
そしてあやクルさんは身体が秀才くんとは思えない低い声を出しつつ私を思いっきり睨む。
「…お前は私に喧嘩を売っているのか?
買うぞ?」
「いや、そうじゃなくて!
キミがジメジメしているのが嫌だから励ましてあげようと…!!」
「私が陰鬱だから、と?」
「まあ、うん、梅雨の影響とかトラウマ……とか?」
怒りで今にも逆立ちそうな髪は心なしかぺたりと力を無くし、瞳も怒りに燃えたものから呆れだけを詰め込んだものに戻る。
顔は苦々しげ(呆れが一回りして人間性を疑う域って感じ)
に歪んでからやっぱり溜め息をついた。
「…なにを勘違いしたかは知らないが身体の調子が優れないだけだ。直ぐ治る」
「あんまり良くないけど良かったよ。悲観的だったわけじゃなかったんだね。」
引き続き顔の青い恋人の隣で、満足しつつきちんと椅子に座り直したら泣きながら怒るクルークくん(魂)からすてみタックルを喰らった。
結構痛くて涙目になりつつそれを訴えようとあやクルに意識を向けると頭を抱えながら、私はそんなに弱々しいかなどと呟いていた。
うふふなんて笑って大丈夫だよなんて言ってあげようと思ったら、さっきの台詞に次いで調子さえよければ仕置きでもなんでも私が上だと思い知らせてやるのに…と悔しそうな顔だったので聞かなかったことにした。
完全主義のあやクルさんがベストコンディションでお仕置きなんてどうなるかわからない。
というかそんな発想に至るのもやっぱり梅雨でジメジメしてるせいだよね。きっとそう。早く梅雨開ければ良いのにね。
梅雨と彼とジメジメの関係性を考えてみよう。
2012/07/07