「何で起きてこないんだよ」
今朝最初に会った彼は眉間に皺を寄せて今年一番くらいの不機嫌さで此方を睨んだ。
私はといえば間抜けに寝癖頭に皺のよった寝間着で完全に今起きてきましたスタイル。なんも言い返せない。
「プリンプで見れるのは次は10年後とかなんだぞ?
そりゃあ他の国に行けば毎年のようにやってるだろうけど、プリンプでのこの日は10年後だぞ?」
「…返す言葉もないっす」
はああぁ、と長い溜め息を吐き出し腕組みを解く。
今日はなんか特殊な日食があったらしく天体に詳しいクルークはわざわざ寝坊助な部類の私を誘ってきた。朝に出るという日食観察に。
で、いつまでも来ない私の為にわざわざ家にまで来てくれたのだがそのときの私は夢の中で。
お母さんに起こすよう頼んだらしいのだけど、変な気の使い方をしたお母さんはクルークに上がって叩き起こしちゃっていいわよとか言ったらしい。
そして結局外で1人で見たらしい。だから怒ってる。めちゃめちゃ。萎縮して自然に正座しちゃうくらい。
「テストの日とかは夜更かししても起きれるくせに何でこういうイベントごとは疎いんだか」
朝わざわざ来てくれた彼に申しわけなさすぎで目も合わせられない私はもそもそと頭の寝癖を触る。
癖の強い髪と格闘し始めていたら眼鏡を光らせたクルークがもっさもっさと寝癖を更に引っ掻き回してきた。頭が回る。
「ちょっ、やめ、うわっくっ」
「話 を 聞 け !」
「…はい」
もっさもさ倍増系ステキヘアー。台風の中でも歩いてきたみたいな爆発具合の頭になってしまった。
…今日一応学校あるんだけど。
「…はあ、シグにすてきな髪型とでも言って貰えばいいんじゃないの?」
「まあ確かにシグならそういうこと言うだろうけど」
格好いいとかなんとか虫に似てるって好評を得そうだ。
また脱線しかかった話にクルークは溜め息ひとつ、また頭をもみくちゃにされたいの?と苛々。
ごめんと謝ってまた鎮座。
クルークはぺらぺらと日食について語り出した。
* * *
まったく、鈍いから困る。
「金環日食って言って日食で出来た環、つまり輪が見える日だったんだ。
普通の日食とは全然違う」
「それを何故私に見せようと?」
「……金環って要するに金のリングじゃないか」
「?」
「あーもう…」
今はまだきっと言うときじゃないんだ。だから二人で見れなかったし、伝える勇気も出ないし伝わらないんだろ。
「あの?クルークさん?」
「金環日食には実は二人で見るとずっといれるっていう逸話があるから一緒に見てやろうと思っただけだよ!
ナマエは僕がいないとダメダメな困ったさんだからね!ずっと横で世話してあげるって意味さ!この優秀な僕がね!」
「え、そうなんだ!」
咄嗟についた嘘も信じるんだからまったく…。
嘘だよ、真っ赤な嘘。それになかなか押し付けがましいし。
それでも気にしないナマエはそうだ、と気づいた風に呟いた。寝癖がぴょこりと揺れる。
「じゃあ見れなかったけど次の10年後のときも誘ってくれると嬉しい」
「そのときには寝坊癖直せよ」
「うんまあ頑張る、」
そのときくらいには僕だってキミに思いを伝えるに相応しい奴になってるはずだ。
そう信じよう。
2012/05/21
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金環食 【天文】 an annular eclipse (of the sun).
迷走気味の秀才眼鏡