※百合
うむむむ、とりすせんぱいのように唸るナマエ。
顎に手を当てる様は女の子らしくないといえばらしくないです。
「言わずべきか言わざるべきか……」
「どうしたの?」
「やありんごちゃん。
まぐろくんに言いたいことがあるんだけど言った方がいいのか言わない方が良いか迷ってるんだ」
「どんなことですか?」
「うーん、秘密。個人的だから言わないでおくよ」
困ったように笑うナマエに私の内側も困ったことになりました。
ナマエはまぐろくんが好きなんでしょうか。それはあまり受け入れたくない事実です。
そういう気はないつもりですがやはり悔しいという気持ちが出てきてしまうのはやはりそういう気があるんでしょうか。
勿論、ナマエがまぐろくんに取られてしまう形になるのが悔しいと思うのです。
実験失敗した鉄屑のように汚い色でごぷり溶けた心情に蓋をしても悪臭は溢れ出てしまうのは致し方ないのか意地悪な言葉が口から出てしまう。
「シュレーディンガーの猫って知ってる?」
「知らないかな…どんなやつ?」
「哲学とも心の哲学とも呼ばれている話なんですが、猫を不定期に毒物が溢れ出す装置と一緒に箱に入れたらどうなるか、という話です」
「猫はどうなるの?」
「装置が作動すれば勿論死にいたりますし、装置が作動しなければ生き長らえます」
「つまり?」
「箱を開けなければ猫は死んでもいますし生きてもいるという不思議な思想です」
「…頭痛くなってきた」
こめかみに手を当てて更に唸るナマエ。私はこのはっきりしない(更に苦手な非科学的なモノと似ているからか)この考え方は好きませんが、これが意地悪です。
「ようするに、ナマエがそれを伝えて失敗するも成功するも、箱を開ける…伝えなければ失敗も成功もしているんですよ」
「うぬぬ…つまり何もしない方が良好ってこと?」
「まあそういう考えもあるという話です」
やはり考えこんで唸る。
解釈を変えれば何もするなと言っていることにも気づかないナマエは私の、蓋すら溶かしてあふれ出てきた鉄屑のような心情とは真逆の綺麗なものを持っているんでしょうか。
「じゃあ逆に箱を開けなければ実験結果すら出ないってコトだよね」
「えっ、」
「言うか言わないかは私の自由だけど言わなきゃまぐろくんはそれに気づかないままなんてなんか狡い気がするんだよね」
失敗した、ナマエの気持ちを後押してしまった。
まぐろくんを手招きするナマエ。まぐろくんは嬉しそうに此方にやってきた。
今日だけは幼なじみが邪魔者に感じる。
まぐろくん、ずるい。
端っこでぽそぽそと2人は喋っている。
まぐろくんの反応はといえば、青くなって、真っ赤になってととても滑稽。
ナマエはくすくす笑ってまぐろくんの反応を見ていた。
話が終わってナマエはお陰ですっきりしたし、まぐろくんもありがとうって言ってたと、また私にありがとうと言って一足先に昇降口に向かって去りました。
まぐろくんは未だに照れているのか困った様に頭をかいていました。まぐろくんまぐろくん、と声をかける。
「んっと、どうしたのりんごちゃん★」
「どう返事したんですか?」
「ええっ!どうって言われてもなぁ……恥ずかしいの一言に尽きる、よ…★」
「YESかNOで返事をしたんじゃないんですか!?」
「えっ……?!
りんごちゃん、別にナマエちゃんは僕に愛の告白をしたワケじゃないよ」
「えっ」
「あんまり大きい声で言いたくないけど、さっきナマエちゃんは僕のズボンのチャックが開いてるって教えてくれただけだよ★」
「……………」
「り、りんごちゃん…?
だ、大丈夫?」
「まぐろくん!紛らわしいので今度から是非チャックのないゴムタイプのズボンを履いていただきたい!」
「と、唐突だね…!
ていうか、コレ制服なんだけど…★」
「それでは今日は失礼します!」
幼なじみの困り顔を後ろに私は家路へと向かう。
私の今の顔ですか?
女子らしくないにやにやとした好感の持てない顔をしていると思いますよ。
青春なんてそんなもん
まだまだ青い春は私たちには早いようです。
2012/03/02