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赤に塗りつぶされる。
赤は原色で強い色だから、黒の次に他の色を圧倒するからだと思う。

けどそれは水の量の問題だろう?
その赤を水まみれにしてこっちの色を強くすればいいだけの話だ。


side



紅い魂が威嚇するように歯を剥き出しにして此方を睨んでいる。本はその度にカタカタ音をたてた。ああ、もう煩い。


また良いとこどりをしょうと鋭い手を伸ばしてくるけど今日は譲らない。譲ってなんてやらないんだ。


乗っ取られないよう細心の注意をはらいながら本棚の真上に置いてやった。
まだ煩いけどもう負け犬の遠吠えに近い。ざまあみなよ。
僕だってやられっぱなしじゃないんだぞ。



僕が本を置くのを目で追っていたナマエの両腕を掴んだ。
そしてそのまま壁際に追い詰めた。

それでもまだ目線は本棚へと揺れている。腹立たしい。
今優位に立っているのは僕なんだ、キミに酷く出来るのも、魔物を懲らしめてやれるのも。


…まあどちらも出来ないって自他共に分かっているからこうなったのも分かってはいるさ、でも分かっていても止められないんだ。


僕はナマエの耳に口を寄せて、自身で渦巻く黒いモノを吐き出すように低い声を出す。


あいつとは違う(あいつも僕の身体だけど)、僕が出す、低い声で。



「…あいつも、僕もクルークだ」



「…………!」




「結局は僕だろ?
それにあいつはキミのことなんて見ていない、道具扱いしているだけだよ」



「…そんなことは、」



「…僕を選びなよ、キミは僕といるべきなんだ」



少し抵抗の気を見せた腕をまた握りしめた。

そしてそのまま、間の空いたナマエの唇をゆっくりふさいだ。

長めにふさいだ唇を離すと、ナマエは肩で息をしていた。
背に手を当て抱き寄せて本棚を見た。



どうだい?悔しいかい?
ナマエは僕のものだからキミなんかには渡さないよ。
いつもキミに機会を奪われてばっかりだけどもう負けないから。

それに知ってるかい?
さっきのキス、ナマエにとってのファーストなんだよ。


ぐっ、とナマエを抱く手に力を込めて魔物へ舌を出した。


ざまあみろ!ってね!






*2012/02/08
素材:誤爆

 
 
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