「いや、本当に前回のは悪かったと思ってるんだ。本当に悪かったよ」
そっぽを向いてこちらを見ようとしないあやクル。
聞きたくもないらしい。
「だからさ、今回はちゃんとキミに伝えていくつもりだし、次の日また色々つきあうからさ」
あやクルが座り、本を読む隣で私はとてもお行儀よく手を膝の上にのせ、姿勢良く座っている。
授業中でさえそんないい子ちゃんポーズをしない私が何故自宅でそんなことをしているのかと言うと、反省しているのではなく動けないのだ。
もっと言うと動けなくされた、というところか。
そこで私のことを完全無視し本の頁を進めながら優雅に紅茶を飲む紅い人に。
何故そんな事態になったかというと、
周知の事実だと思うが、あやクルは借り物の身体であり本来の身体を探している。
彼には自分の身体を取り戻して欲しいと思うが、シグという少年を犠牲にするわけにはいかず現状維持である。
でも探せば彼の身体を誰も犠牲にせず復活させる術があるかもしれないと思い、そのためにも苦手な魔導を高めようと最近レムレスに魔導を教わっているのである。
しかしあやクルにはそれがとても気に入らないらしく、行ってくると声をかけ出掛ける度に眉間に皺を寄せ機嫌が悪くなる。
毎回機嫌が悪くなられても大変なので、前回は何も声をかけず家を出たのである。
今回もそれを実行しょうと席を立ち黙って外へ出ようとしたところ、まったくの無表情で私の肩を掴み椅子に座らせると何かの呪文を唱え私を動けなくしてしまったのであった。
説明おわり。
そして冒頭に戻る。
ぱたん、と読んでいた本を閉じた。
今がチャンス、と声をかける。
「わかったちゃんと話をしょう。キミは色々分かっていないみたいだから話を聞いて欲しい。だから、まずこの状態をどうにかしてくれないかな」
もう仕様がない。分かってもらえるまで話をしょう。
だがしかしこの状態では私が不利過ぎるのだ。
「このような低級魔法などすぐ解けるだろう」
こちらを見ずに新しく積んである本に手をのばす。
まずい、また集中して話を聞かなくなってしまう。それは困る。
「こんなのも解けないからレムレスに教えて貰ってるんだけどな」
どうしょう、とぽつりと呟いた言葉にぴくりとあやクルが動いた。
そして此方に向き直った。
ようやく解いてもらえる、と思ったら奴の手はゆっくりと私の上着のボタンを外していった。
「え、ちょ、あやクル?何を?!」
首すらも動かせないので本当に目線だけ動かすと、真ん中位のボタンで手を止め、上着をはだけさせた。
あやクルの表情は伺えず、声も出してくれないので何を考えているか分からない。
そして、そのままためらいもなく首筋に噛みついた。
痛いと声を漏らすとそのままちゅ、とリップ音。
張っていた気や力が抜けた。
恥ずかしさからぎゅっ、と目を閉じる。
何回も繰り返した後にぱちんと指を鳴らし。私の拘束を解いた。
急に自由になりよろめき、あやクルの肩に首をのっけるような形になる。
はたから見たら抱きしめあっているような体勢。
「行きたいのなら行くがいい。このような姿を晒してもよいのならな」
そっと耳に口を寄せ囁く声に、ああこれは勝ちを確信したときの声だなぁ、と遠くで感じた。
「分かったよ、今日は行かないよ」
「今日、は?
そうかまだ足りないのか」
「分かった、分かったよ。もう行かないようにするよ…」
「……ふん」
かなわないなぁ、
*20111116
*20111211 ちょっと修正