「へっくしょん、へっくそん!!」
「…………………」
「いや、多分本についてるホコリがね、私にはなかなかの害をなしてくれるらしくてね…ぶぇくし!!」
「…今日は図書室に行っていないのだが」
「………ぶぇくし!!」
本の貴公子ことあやしいクルークは、いつものクルークから言動、佇まい…諸々のことをかっこよくした謎のイケメンである。
距離をおいていれば普通に大丈夫だけれども、近づかれるとあまりのイケメン、顔が整い過ぎて普通に喋れないのである。
イケメンビーム出てますよね、彼。
でもそんなことを言ってしまったら最後、奴は ははんとでも鼻で笑ってじりじりと距離を詰めて私をいじるだろう。
だから冒頭のくしゃみである。
本のホコリが駄目と言っておけば本が恋人のこいつは近づけないだろうと踏んでのこの策。
最初は上手く行き過ぎて困っちゃうとか思っていたけど今更無理があり過ぎると思った。
良策から奇策、そして苦策である。
あきらかにあやクルさん疑ってるよね、メガネめっちゃ(光の加減ではなく)光ってるし。
「………………」
口をへの字に曲げながらずんずん近づいてきた。
「ぶぇくし!!、へっくそしし!げふん、はくそん、!」
「……嘘臭い嚔だな」
「生まれつきこんなんだよ、へっくそん!」
じりじり間を詰めてくるあやクルに対して私もじりじり退る。
気がついたら後ろは壁でした。
「え、えと…………」
あやクルは私を挟んで壁に手をついた。
「くしゅん、………」
「…まだ小芝居を続けるのか?」
「こ、小芝居なんかじゃないさ!くしゅん、くしゅん」
往生際の悪い応え。
ちっ、と舌打ちすると片方の手を壁から離して私の顎にあて、上に向かせた。
顔と、顔がとても近づいた。
「…………!」
とても目を離せなくて、じっと見つめたまま息をするのも忘れていた。
勿論くしゃみも。
鼻と鼻がくっつきそうな距離で止めて悪戯が成功した子供みたいに笑った。
「嚔はもういいんだな」
「…………うん」
奇策なくしゃみ
*20111109