イスカの恋路 | ナノ
退屈な授業。退屈な教師。退屈なクラスメート。退屈な自分。そんな気分がこの煙と一緒に空気に溶けてしまえばいい。
屋上の給水塔の裏で煙草を吸っては吐き出し、くだらない妄想を煙へと乗せた。そうしていると屋上の扉が開く音がして、図体のデカイ男が欠伸をしながら現れた。青峰大輝である。

青峰大輝の存在を知ったのはここ最近のこと。男女の喧嘩するような声が聞こえたため、給水塔の上から下を覗いてみると、長身の男と桃色頭の美女が言い合いをしていた。「青峰くん」そう彼女が呼んだのが聞こえて、そういえばそんな名前をクラスの誰かが口にしていたなと思い出した。
その日から青峰大輝のことを観察するようになった。成人向け雑誌を読んでいたり寝ていたり。桃色の彼女がきたり、パシリらしき人が弁当を届けたりと、コイツは何様なんだと思った。

今日も今日とて給水塔の上でぼんやりと景色を眺めていると、青峰が屋上へ現れた。私のいる場所は青峰より高い位置にあるため、向こうはこっちの存在に気づいていない。こちらだけが向こうの存在を知っているというのは、よく分からない優越感があった。

「あ? 雨かよ」

そんな青峰の独り言に「え?」と思わず声がこぼれ、空を見上げる。すると雨粒が頬を叩き、本当に雨が降ってきたのだと実感する。

「青」

そう発せられた言葉はどうやら私に向かって言われたものらしく、視線を落とすと初めて青峰大輝と目があった。そして思い出す。今日の下着は青だったことを。

「見てんじゃねーよ、ガングロ」
「あ? 誰がガングロだよ」
「アンタしかいないだろ。ガングロ」
「テメーふざけんなよ」
「ふざけてねーよ」

お互い睨みあったまま。そして多分私は下着を見せたまま。どちらも動こうとしなかった。

「チッ」

雨が本降りになったところで、青峰は一つ舌打ちをして屋上を後にした。本当は私もすぐに室内へ移動したかったけれど、青峰と鉢合わせたら嫌だなと思い、ずぶ濡れのまま空を睨んで悪態をついた。


「最悪」


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次の日。昨日の雨が嘘のように晴れて、今日も私の足は上へ上へと進む。

「あ」
「あ?」
「何でアンタがここにいんの」
「俺の勝手だろ」

給水塔の上。いつも私が腰を掛けていた場所に、なぜか青峰大輝がいた。別に私の場所ってわけではないけど、腹がたつ。
隣に座るのは絶対に違うと思ったので、裏側に回る。青峰と会話をすることはなく、私は私の、青峰は青峰の時間を過ごした。


「青峰くん! 部活ー! って、あれ?」

今日も探しに来たらしい彼女が声をあげ青峰を探すが、当の本人は彼女の呼びかけに応えることはなかった。「青峰くん」「青峰くん」そう何度か声がしたけれど、姿が見えないのでは探しようがないと思ったのか、彼女が屋上を去るのは早かった。

「いーの? 彼女アンタのこと探してんでしょ?」
「いーんだよ」

私の呼びかけに、気だるげな声が返ってきた。

「ふーん」

別に興味ないけど。それっきり私と青峰との会話はなく、ポケットから取り出した音楽プレイヤーのイヤホンを耳に突っ込んだ。
大して好きでもない曲が私の頭の中に侵入してくる。「君のいなくなった街は色褪せて見えて、僕の日常も色を失った」誰かがいなくなったわけではないが、この屋上から見える景色も灰色のビルばかりで、この歌の景色もこんな物なのかと想像した。


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それから私の退屈で仕方なかった日常が少し変わった。

「おい。きーてんのか」

コイツ。青峰は徐々に私に話しかけて来るようになった。

「聞いてない」
「はぁ?」

今では私の隣に座り、私がイヤホンで音楽を聞いていようが煙草を吸っていようがお構いなしにくだらない話を聞かせてきた。

「で、桜井良が? 何?」
「あ? 聞いてんじゃねーか」

それから小さくだけど、たまに口角を上げるようになった。

「何笑ってんの」
「笑ってねぇよ。どう見たら笑ってるように見えんだよ」

その上がった口角は何だと文句の一つでも言ってやろうと口を開くと、デカい手でそれを抑え込まれた。青峰は周囲の音に耳をすます。お前は獣か。

「青峰くん? 青峰くーん!」

彼女のご到着だ。その声に何故か私の頭の上に手を乗せて「あーだりー」と小さく文句を言いながら立ち上がった。

「うるせーブス。聞こえてるっての」
「ちょっと!」

二人が屋上を出て行った音を確認してから私は立ち上がる。青峰が私の隣に座るようになったばかりの頃、彼女が屋上にくると声を潜め、隠れた。「何してんの?」と聞くと「アイツに見つかるといろいろ面倒なんだよ」と返された。確かに彼女からしたら面白くないんだろうけど、それが面倒なら私に関わらなければいいのに。


校内に残る生徒はまばらで、遠くから部活動に勤しむ人の声が聞こえる。

「おい」

その声に振り向くと、そこには不機嫌な顔をした教師がいた。あぁ、今日は運が悪いな。教師に出席日数について説教をされた。今までは出席日数を計算してさぼっていたが、青峰と関わるようになってから授業に出ていなかった。明日からは屋上ではなく教室に行くことにするか。

教師の説教のせいで、空は少し色を変えていた。通りかかった体育館の入り口を目だけで確認すると、バスケ部が動き回っている。そこに青峰の姿はない。
入学時にバスケ部の青峰と名前だけが一人歩きしてた。本当に有名なんだろうけど、興味のなかった私にとってはその程度の認識。あーあと、彼女もバスケ部だとか。
今日は説教をされたせいか、気分が悪い。

退屈を空が連れ去って欲しい

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