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休み時間。高二にもなってギャーギャー騒ぐ男子をみて馬鹿だよね、ガキだよねと冷ややかな視線を送る女子。まあ、私もその一人で。シャーペンをくるくる回して手遊びをしながらそれを眺める。元気だなと視線を窓に移した時、ドンと重い衝撃。手からこぼれ落ちたシャーペンが「わりーわりー」と言って私から離れた木兎の足元で嫌な音を立てた。

「ちょっと」

私の低い声にデカイ図体を縮こまらせて謝る木兎。

「今日のお昼」
「いや、そんな金っ」

抵抗する木兎に間髪入れずに「今日のお昼」と繰返し言うと、しょげた顔をしながらも頷いた。

そしてお昼休みに木兎と食堂へ行き、一番高いものを奢らせようとすると本当にお金がないのだと人目気にせず騒ぎ立てる。恥ずかしいやつだ。そんな騒がしいコイツに声をかけてきた男子が一人。

「木兎さん何騒いでるんですか?」
「赤葦! 助けて!」

そう言って赤葦と呼ばれた人物の後ろに隠れる。その赤葦とやらは、端正な顔立ちのイケメン。正直タイプである。一年か?うわーイケメンと言いたくなった言葉はごくりと呑み込んだ。

「コイツひでーの! 俺500円しか持ってないのに昼飯たかってくるの!」

いやいや。500円しか持ってないとか初耳なんですけど。てか自分で頷いたんじゃん? なんで私が悪役なのよ。そんな思いに答えるように後輩くんが「どうせ木兎さんが何かしたんでしょう」と言い放たった。

結局木兎にお昼を奢って貰うことは叶わず、何故か三人でお昼を食べる流れに。自分の唐揚げを涙目で私のお皿にポトリと置いた木兎。コレで許してと目が訴えている。「木兎さん何をしたんですか」と興味なそうに聞いてきた後輩くんに事の経緯を話せば「ほら、やっぱり木兎さんが悪いんじゃないんですか」と淡々と述べた。「でもわざとじゃないし」そう言ってむくれる木兎は、水持ってきますと空になった私のコップを持ち自主的に水を取りに行った。

「木兎さんと仲良いいんですね」

話しかけられると思わなかったから、驚いてすぐに返事をできなかった。けれど後輩くんは瞬きをするだけで、身動きせずに私の返答を待つ。

「腐れ縁? みたいな。小学校から一緒なの」

そうですか、と言ったきり会話はなかった。けれど不思議なことに、この沈黙に気まずさは感じられなかった。ただ、その沈黙は長くは続かずガチャンと乱暴に水を置いて「腹へったー!」と馬鹿みたいな大声を出した木兎によって壊された。
ペチャクチャ話しながらご飯を掻き込む木兎に対して、静かに箸を進めて適当に相槌を打つ後輩くんは木兎の扱いが非常に上手いなと関心した。

あーあ。木兎に踏んづけられたあのシャーペン気に入ってたのに。ちょっと高いお値段のシャーペン。木兎に言ってもわからないだろうけど、シャーペンだとかボールペンだとか。歯ブラシとか歯磨き粉とかその他もろもろ。そういう物はちょっと高くても良いものを使いたい私。今日の帰りに買って帰ろう。そう頭の中で思案していると不意に交わった視線。

「なに?」
「唐揚げ食わねーの?」

自分で寄越したくせに狙ってんのかよ。バクンと一口で食べて見せると「あぁ」と情けない声を出した木兎にフンと鼻で笑って見せた。すると、後輩くんが微かに笑った気がした。


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あー木兎の後輩くんイケメンだった。まじ目の保養なんて考えながら帰宅して、買ってきたシャーペンの袋を破こうとして気づいた。最悪。これ0.3oのやつじゃん。芯持ってないんですけど。え、今から買いに行く? いや、無理でしょ。本当に最悪。レシート持っていけば取り替えてくれるかな。一応持っていこう。そう思ってレシートとシャーペンを鞄の奥にしまいこんだ。

それから何だかんだシャーペンは鞄の奥に入ったまま。家にあったシャーペンを使ってみたら案外気に入って、そのままとなっていた。


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新学期になり、じゃんけんに負けて面倒な委員会になってしまった。委員会の教室にいると見覚えのあるイケメンが入って来て、目が合うとお互いに「あ」っていう顔。

「こんにちは、後輩くん」
「ども」

それから何度か一緒に委員会活動をする機会があって、すれ違えば挨拶をするし普通に会話をするくらいの仲になった。何より木兎に用事らしく、よく三年の教室に来るためほぼ毎日顔を合わせている気がする。

そんな日常のある日。十二月になってもう今年も終わるのかと考えてると木兎が「今日赤葦の誕生日なんだぜ」と大声で言っているのが聞こえた。へー冬生まれなんだ、射手座かなとぼんやり考えた昼休み。放課後にはそんなことすっかり忘れていて、適当に委員会の仕事をこなしていた。一年が仕事終りましたと活動記録を持ってきて、二年はいくら待っても来ない。一年に二年は誰か知ってると聞くと赤葦先輩だと答えた。

忘れて部活に行ったのか? いや、木兎じゃあるまいし後輩くんはそんなタイプじゃない。たぶん何かあったんだろう。一年を帰して仕方無く二年の仕事を片付ける。仕事をほぼやり終わった頃に廊下を走る足音が聞こえて、勢い良く現れたのは後輩くんだった。

「すみません」
「今度ジュースでも奢ってよね」

冗談で言ったのに「はい」と返事をして私がやっていた仕事を一緒にやり始めた。勿論5分とかからず終わった作業。

「活動記録くらい書いてよ」
「はい」

椅子に座って膝の上に乗せた大きなエヤメルバックのファスナーを開けると、今にもこぼれ落ちそうなプレゼントの山。

「凄いねソレ」

その山の下にあるであろうペンケースを掘り起こすのは随分と難儀に見えたので、後輩くんにそれ以上鞄を開けるなと合図した。

「そっか、そっか。誕生日だったね。なら私が代わりに書きましょう」

後輩くんの前に座ってペンを走らせながら、「凄いプレゼントの山だね。モテモテじゃん」とからかうと「部員がくれたんです」と何とも分かりにくい表情で言った。私も何かあげれるものがあればいいんだけど、今日に限ってチョコもあめ玉もポケットには入っていない。

「何で誕生日って知ってるんですか」
「え? あぁ、木兎が大声で言ってたの」
「そうですか」

後輩くんの名前なんだっけ。赤葦、赤葦。そんな私の止まった手を見て察したのか「けいじです」と言いながら、机に指で京治と書いた。

「赤葦京治ね。よし終わり、お疲れ様でしたー」

自分の鞄にペンをしまい、チラリと底に忘れ去られた0.3oのペンが見えた。お、懐かしい。鞄を重そうに担いだ後輩くんに声をかける。

「赤葦京治くん。誕生日おめでとう」

目を開いて随分と驚いた顔をした後輩くん。そんなに予想外だったか?

「これねー覚えてるかな。木兎にシャーペン踏まれて初めて食堂で後輩くんとあった日に買ったやつなんだけどね。芯の太さ間違っちゃって未開封のまま放置してたやつなんだよねー」
「要はいらない物をくれるんですね」
「まあ、そう言うこと」

めっちゃ皮肉言われた。そりゃそうよね。「それともジュースでも奢ろうか?」と聞けば「いえ、嬉しいです」と言ってシャーペンを受け取った。
少し柔らかくなった表情。本当に嬉しいのか?

「ミョウジさん、俺のこと名前で呼んでくれませんか」
「あ、後輩くんって嫌だった? ごめんね赤葦くん」
「違います。俺の話聞いてましたか?」

意味がわからず「は?」と間抜けな声が漏れた。名前って、名前ってこと?

「え? なんで?」
「何でだと思いますか」

何でって。え?

「じゃあ、次からはそういうことでお願いします」

そう言ってさっさと教室を出ていってしまった。後輩くん。赤葦くん。赤葦京治くん。
ちょっと待って。え? なんなの?


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「ねぇ、ちょっと木兎聞いて。私の友達の話なんだけどさ……。……いや、なんでもない。木兎に相談とか早まったわ」
「え? なんの話? 俺、今話しかけられたんだよね?」
「いや、ミス」
「ミス?」

京治くんと呼ぶまで後一週間。付き合うまで後一ヶ月。

つづき

後輩くん

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