main | ナノ
※捏造を含みます。ヒロインの旧姓が坂木となっております。ご注意ください。



彼を好きになったのは、単純に顔が好みだったのが一番の理由だと思う。他にも理由を上げるならば、彼に黄色い声援を送る校内の女子の雰囲気だとか、強豪バレー部のエースだからとか。きっと今話題の芸能人を好きなる感覚に似ていた。だから高二のバレンタイ。受験一色になる前に、せめてもの高校生活の思い出に告白しよう。なんて、安易な考えをした私は愚かだったのかもしれない。


「好きです。受け取ってください」

初めて面と向かって話した。想像より高い位置にある視線。ひらりと雪が舞い降りてきた道筋のようなカーブをした髪。私の好きな人、佐久早くんは顔半分をマスクで覆っていながらも、怪訝な顔をしているのは眉間を覗いただけで充分に理解できた。

「手づくりじゃないから……よかったから、受け取って……ください」

噂で手づくりの物は受け取ってくれないと聞いていたため、そのへんは抜かりない。そんな私の言葉に多少安心したのか、佐久早くんは「どうも」とまったく感情のないような声色で私のチョコを受け取ってくれた。

「バレー部の試合、見てます。すごく格好よくていつもドキドキしてました。また、見に行きます」

それじゃあ、と言い逃げをして私は走った。今まで生きてきた中で一番心臓がドキドキしている。高校受験の時の緊張を追い抜いて、今の、この緊張が第一位だ。告白は終えたというのに、全身が沸騰しているかのように熱くて、血がボコボコと騒いで、目が映し出す風景をチカチカと発光させている。これぞ青春だ。青春を謳歌しているのだ。告白された佐久早くんの気持ちなどそっち退けに、私はそんな満足感に浸っていた。


-----


「え、バレンタインに告白したの?」
「そう!」
「聞いてないんだけど!」
「うん。言ってない!」

友達といつもの習慣、体育館のギャラリーでバレー部の練習を覗いている時に告白したことを報告した。すると友達はなんて無謀なと、ほんのちょっとの尊敬と、たっぷりの飽きれを孕んだ視線を私へと向ける。

「それで返事は?」
「聞いてない」
「はあ?」
「好きですってチョコ渡して」
「それで?」
「それで終わり」

なんだそれ、自己満足のオナニープレイかと女の子らしからぬことを表情ひとつ変えずに言う。やめて下さいよ、万が一佐久早くんに聞こえでもしたらどうしてくれるんですか。そんな私の訴えなんか届かない。

「好きですってチョコ渡されて、言い逃げられた本人の気持ちにもなりなさいよ」

そう言われて想像する。もし私が話したこともないような人に「好きです。ずっと可愛いと思ってました」なんて言われたらどうなるか。誰だこの人は、私が可愛いってどういうことだ、これは夢かと疑いたくなるだろう。そして次の日からその人のことが気になっちゃって、探しちゃって、あの人私のことが好きなんだってドキドキしちゃって、終いには好きになってしまうかもしれない……。そこまで想像して手が震えた。

「どうしよう」
「ようやく分かったか愚か者め」
「佐久早くんと付き合えたらどうしよう」

スパーンと後頭部を叩かれ、揺れた視界の端。なんでかコート上に立つ佐久早くんと目があった気がした。


-----


佐久早くんと付き合ったらどうしようと妄想して悩んだのは二週間くらい。そしてそんなことあるわけないよなって現実と向き合って二週間。三月十四日。ホワイトデーだけれど、私にとってそれはあってないようなものだ。お父さんにあげたチョコのお返しは、バレンタインの次の日には私とお母さんにケーキを買ってきてくれたし。私のホワイトデーはそれで終わり。しかしながら今年は本命、佐久早くんにチョコをあげた。けれどさすがの私も、お返しが貰えるとはとは思っていない。だって誰かが佐久早くんにチョコをあげたって話を聞いても、お返しを貰ったなんて聞いたことがないのだから。

私の高校生活の青春イベントは終わったのだ。そう思っていたのに放課後、昇降口で私のクラスの下駄箱の傍にマスクをした彼が立っていた。校内でも滅多に会うことがないので興奮がヤバイ。うわーうわーすれ違うとき匂いとか嗅いだらヤバイかな。ヤバイよね。必死で顔面に力をいれて靴を履きかえ、ふんと鼻で息を吸い込みながら通り過ぎる。すると空気が震えた。

「おい」

静かなのに、私の鼓膜をガンガン刺激する音。黒々とした虹彩にはっきりと私が映っている。目が合っている。それだけで全身が痺れて硬直する。

「……おい」
「はい」

佐久早くんが私に声をかけている。夢だろうか。夢だったら抱きついてみてもいいだろうか。いや、夢ではないから駄目か。そんな馬鹿なことを考えながら「ちょっといいか」と口にした佐久早くんに続いて学校を出た。

佐久早くんの背中を眺めながら今何が起きているのだろうと考える。佐久早くんが私のことを待っていて、それはつまり私に用があるってことで、もしかしてホワイトデーのお返しを貰えたりなんかするのだろうか。そして告白の返事を貰えたりなんかするのだろうか。ということはつまりだ、私は今から何分か後には失恋するということで。そこまで考え付いて、失恋かーと上気した気分が急降下。でもまだ振られたわけじゃないし。最初で最後だろうから、せめて隣を歩いてもいいだろうかと開き直る。

歩く速度を早めて、しれっと隣に並んでみる。ぶわっと体温が上がる。そしてこっそり佐久早くんを盗み見ると、私のことなんか見えていないみたいに涼しい顔。けれどその表情が、いつも体育館のギャラリーから私が見つめていた顔で思わず叫びたくなる程格好良かった。


チラチラ佐久早くんを見ながら歩くこと数分。たどり着いたのは公園と呼ぶには遊具がなくて、広場と呼ぶには狭くて。名称の分からない場所だった。そんな少し開けた場所の真ん中で佐久早くんは足を止めた。そして鞄から小さな紙袋を取り出し私に突きつけるように差し出した。

「ホワイトデーの、……お返し?」
「他に何があんの」
「まさかお返しが貰えるとは思っていなくて」

ありがとうございますと深々と頭を下げて、紙袋を受けとる。泣きそう。憧れの佐久早くんからお返しが貰えるなんて。今日の帰り道は死ぬほど気を付けないと何かあるのではないかと思えるほど、非現実的。今ならUFOが降ってきても驚かない自信がある。……それはちょっと嘘。けれど私はUFOの存在の有無なんかより驚くこととなる。

「どんぐり」

抑揚の少ない声で佐久早くんからなにやら可愛い単語が飛び出してきた。

「え?」
「どんぐり保育園」
「保育園?」
「一歳児クラスたんぽぽ組」

頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。

「二歳の時はすみれ。三歳はもも。その次はうめで途中で転園」

思考がついていかない。意味なんて理解できずに、ただの単語として私の脳内を支配する佐久早くんの言葉。握った紙袋の持ち手の素材が、私の指紋ひとつひとつに馴染むようにして肉へ食い込む感覚をただただ感じていた。すると佐久早くんが少し屈んで私の顔を、瞳の中を覗き込む。その視線は私の遥か内側を見ている様だった。

「その時は坂木ナマエだった。そうだろ?」

保育園? 転園? 昔を思い出そうとするが、特に思い当たる記憶はない。けれど私が三歳か四歳の時に親が離婚した。それに伴って引っ越しした。父親の姓は坂木だった。でもそれは記憶にあるのではなくて、後から聞いた話。ただ知っているだけ。だから私のことを「坂木ナマエ」と呼ぶ人なんて誰もいないし、そんな響きは馴染みがなくて他人のようにしか思えなかった。

「えっと、確かに親の離婚とか……再婚とかで……苗字は変わったけど」

佐久早くんが言っている「坂木ナマエ」というのは私ではなく別人なのではないか。そう言いたかったけれど、私より先に佐久早くんが口を開いた。

「俺の記憶は絶対正確だけど」
「でも私、保育園はひまわり保育園ってところだったし……」

私を覗き込んでいた視線が離れて、佐久早くんは背中を伸ばし遠くを眺めるようにして顔を背けた。そして静かに囁くように言葉を吐き出した。

「一番古い記憶っていつ?」
「断片的だけど……保育園の記憶あるよ」
「俺は母親の腹の中」
「え、」

テレビか何かで胎児だったときの記憶がある人がいることは知っている。けれどそんなのはテレビの話で、今目の前の佐久早くんがそうだなんて私にはピンとこない。

「お前に告白されたのは計三回」
「三回!?」
「外遊びも他の人が使う玩具で遊ぶことも好きじゃなかった俺の隣にいつもいた」
「もしかして同じ保育園だったの!?」

ドラマや少女漫画みたいだ。運命があるならこういうのをそう呼ぶのだろうか。高鳴った胸。そんな想いで佐久早くんを見つめるも、返された視線は酷く冷ややかなものだった。

「俺はお前が告白したことも、俺の存在自体を覚えていないような薄情なやつでも、今更失望したりしない。最初の記憶が永遠に生きているから」

佐久早くんの告白は愛を叫ぶというよりは宣言のような告知のような。それでも「昔から好きだった」と勝手に脳内変換された言葉に、ときめきを止められない私の思考はびっしりと花が咲き乱れていた。そんな花弁を吹き飛ばすように佐久早くんは鼻を鳴らし、私を試すような挑発的な視線を向ける。

「で、お前。俺のこと好きなんだっけ?」


-----


家に帰ってから、昔のアルバムがしまわれている段ボールをひっくり返した。薄いアルバムやポケットアルバム、挟まっているだけの写真たちがわらわらと床へ広がる。それらを手に取り中身をパラパラと確認するが、お母さんが離婚してから父親の映る写真は処分されたようで、極端に写真の少ない時期があった。佐久早くんが言っていたのはこの時期だろうから、その写真がある可能性が一気に低くなる。

まだ諦めるには早い。そう思って今度は本棚を漁った。そこで目立つ赤い背表紙を抜き取る。撫でた表紙が皮のような質感の卒園アルバムには、私の記憶通りひまわり保育園と書かれていた。ページを捲って一人一人顔を確認すると、同じ小学校へ進んだ人たちのことは比較的にしっかりと名前が思い出された。けれど思い出すのは小学校の記憶で、保育園のことはほとんど思い出せない。

佐久早くんの幼少期の姿を見れると思ったのに……残念やら悔しいやら。なんともやるせない気持ちになり、一人ぼんやりとアルバムを眺めているとお母さんが帰宅して、なぜ部屋を散らかしているのだと目を大きくされた。

「ちょっとねー」
「ちゃんと片付けなさいよ」
「片付けますとも。それよりさ、私って保育園変わった?」
「変わった?」
「転校? 転園? したりした?」

懐かしいと頬を緩ませながら私の隣に腰を下ろし、写真へ手を伸ばして眺めるお母さんは「あぁ」と肯定を思わせる声を出した。

「どんぐり保育園ってとこ?」
「そうそう。よく覚えてるね」
「私、その時仲のいい男の子いた?」
「えーどうだったんだろう。あの頃まだちゃんとお話できてなかったし。でもアレしたコレしたって教えてくれてたから、仲のいいお友達はいるんだなぁって思ってたけど」
「その頃の写真ってないの?」

お母さんは顔をしかめて「離婚した時期のはどうだろう」と苦笑いを浮かべてアルバムを閉じた。そしてご飯を作るからちゃんと片付けておきなさいよと台所へ。

私は台所から香るいい匂いを嗅ぎながら、佐久早くんに薄情だと言われたことを思い出していた。意外にもお返しを用意してくれた佐久早くんに帰り際、再度お礼を言うと彼はお返しをするのは初めてだと言った。ついでにバレンタイン、というか食べ物を他人から貰うことはしないらしい。

「それは私のことが好きだから!?」

この馬鹿正直な私の問に佐久早くんは何も言ってはくれなかったが、私は特別なんだと自惚れるには充分すぎて。どうにかして佐久早くんの気を引きたいなと、いつも美味しい頭の下がるお母さんのご飯を食べながら考える。そしてたどり着いた答えは、特別な私は人とは違うのだというどこぞのヒロインを気取った思考。しかしこのときの私は真剣にそうだと信じていたし、それを正してくれる友達もここにないない。そう、もう取り返しがつかないところまで来てしまっていたのだ。頭に咲きっぱなしだったお花畑の甘い香りが、ついに思考回路までドロドロに溶かして色ボケていることにすら気付けない。

「明日自分でお弁当作る」
「なんでまた急に……。起きれるの?」
「頑張る。お弁当箱余分にあったっけ?」
「なんで? ……もしかして、彼氏?」

あんぐりと口を開けたお母さんに、色ボケ娘は「うん」と語尾にハートマークをつけて頷いて見せた。それから所謂女子トークをお母さんとして、お弁当のメニューを相談して、スマホでレシピ動画を見ながら布団に潜った。


そして朝、いつもより一時間早く起きて台所へ立つと、二つのお弁当箱と昨日は見かけなかった表紙のポケットアルバムがテーブルに置いてあった。そしてアルバムを捲ると記憶には無い父親に抱っこされる私。写真、残っていたんだと驚きで暫くその姿を凝視してしまう。懐かしさの欠片もない、新鮮な、目新しい光景。その一枚に少なからず衝撃を受けても、心が動かされることはなかった。
次、次とペラペラとページを捲って手が止まる。これは保育園の運動会だろうか。ダンスをしているような場景を切り出した一枚。私の隣で踊っているのは見覚えのある男の子だった。癖毛に、特徴的なホクロ。きっとそう。間違いない。佐久早くんだ。


-----


「お弁当作ってきたんだけど、一緒にどうですか?」
「無理」
「無理!?」

お昼休み、二つのお弁当を抱えて佐久早くんのクラスへ走った。そして廊下で見つけた佐久早くんに声をかけるも瞬きをするような早さで断られたのだ。無理って、これ以上ない否定の言葉だな。

「人が作ったもん無理」
「佐久早くんいっつも自分で料理するの!?」
「学食だけど」
「人が作ったもの食べてるじゃん」
「学食は衛生管理しっかりしてんだろ」
「……私は彼女なのに」

佐久早くんは舌打ちをして、手は石鹸で洗っただろうな、調理器具は除菌済みだっただろうな、髪はまとめていただろうな、料理しながらくしゃみなんてしてないだろうな等々。彼の気が済むまで質問攻めされた。そんな槍のような質問に「勿論、勿論」と彼をいなしながら食堂へ。食堂は券売機に並ぶ人が多いが、テーブルに座る人はまだ少ない。そんな空間でより人のいない隅の席へお弁当を置こうとすると、佐久早くんが素早くポケットから除菌シートらしきものを取り出し、テーブルを拭きだした。

「佐久早くんって潔癖なんだね」
「潔癖じゃねえよ」
「じゃー神経質?」
「お前が無神経過ぎ」
「えー、初めて言われた」
「年間食中毒患者数、お前知ってんの? 手洗わないと菌がどんくらい増えるのか知ってんの?」

聞き慣れない数字を並べて、自分自身で言ったにも関わらず佐久早くんは絶句していた。こういうのも忘れることがないから気になるのかなと、意外と饒舌な彼の向かえに腰を下ろしながら思う。佐久早くんの話を聞くのは嫌ではないけれど、この話題のままだと一生お弁当を食べてもらえないだろうな。そう考え意図的に話題を変えた。

「そうそう。佐久早くんに見て欲しいものがあるんだよね」

こっそり生徒手帳へ忍ばせていた写真をテーブルの上へ。

「コレ! 佐久早くんじゃない?」

佐久早くんが写真を凝視して固まっている隙に、お弁当の包みを広げて割り箸をスタンバイ。自分のお弁当の蓋を開けて、なんなら佐久早くんの分も開けようと手を伸ばすと、目の前に生徒手帳を突き付けられて額にそれがぶつかった。

「わざわざ探したのかよ」
「だって佐久早くんの幼少期を見るチャンスがあるかもしれないのに、探さずにはいられなかった!」

生徒手帳を受け取り、写真と佐久早くんを交互に見比べる。やっぱり本人だよなあと、一人うんうんと納得。すると佐久早くんは目を大きくさせて、瞬きを数回。その表情が意味するものを理解できずに首をかしげてしまう。すると佐久早くんは私から視線をそらして割り箸を割り、お弁当の蓋を開けて卵焼きを口へ。暫くそれを咀嚼して喉を通ったように見えたが、佐久早くんの箸は止まったままだ。

「美味しい?」
「疑ったりしないわけ?」
「ん? 何を?」
「俺の話まんま信じてんの?」
「嘘ついたの!?」

つかねーよ。そう呟いた佐久早くんの表情は歪んで見えた。

「気味悪くねえのかよ」
「だって私の初恋は佐久早くんなんでしょ? それで佐久早くんも私が初恋なんでしょ? それって運命みたいじゃない?素敵じゃない!?」
「誰もお前が好きとは言ってないだろ」
「え!? 違うの?」

ゆっくりとお弁当から私へ向けられた視線。怒っているように真剣で、それでも揺れた瞳は涙を思わせるほど澄んでいた。

「俺は忘れない。お前が忘れるようなことも忘れない。卵焼きに殻が入ってたことも」
「え、嘘!」

ベロリと伸ばされた舌の上には、白い小さな破片が乗っていた。そして無言で私のお弁当へと残りの卵焼きを乗せて、もう食べないという意思表示をする。「ごめんね」と謝りながら頬張った卵焼きは、味は悪くないものの異物が私の口内を刺して美味しいとは思えなかった。

佐久早くんは次なるお弁当のおかずを摘まみ、じっくりと観察した。疑り深く時間をかけて観察してから口の中へ。そして私に駄目だしをした。それを繰り返して唯一褒められたのは、ご飯がお握りじゃなかったことだった。

「私の株を上げようと思って作ったのに、失敗だったなぁ」

なんだかんだ空になったお弁当箱を片付けながら、本心を打ち明ける。そんな私に佐久早くんは「正直だな」と鼻を鳴らしながらたぶん笑っていた。

「どんなにお前に失望しても、いいときの記憶が鮮明に思い出せるから俺はお前を嫌いになったりしない」
「いいときなんかあった? え! それはいつでしょうか!」

佐久早くんの顔を覗き込むがヒラヒラと大きな手であしらわれて、自身の顔を隠すようにマスクをつけ直す。鼻に当たる部分を整え、マスクのプリーツを確認するように白い波を佐久早くんの指先が撫でる。まるで何かの儀式の様だと思った。そしてそれを終えたのかゆっくりと視線を私へと落として、マスクの中で乾いた息を吐き出すのだ。

「お前は忘れるだろ。今のこの瞬間の、温度も匂いも感覚も忘れんだろ」

お弁当独特の匂い。人の出入りがあるとまだちょっと寒い室内。ざわめいた中でもしっかりと届く佐久早くんの声。

「忘れる……のかな」
「忘れる。明日には忘れる」
「明日は覚えてるよ!」
「ふーん」
「……私は、まあ……忘れちゃうことが多いだろうけど、でも、だから毎日きっと更新されるよ。毎日、佐久早くん好き! って、毎日毎日更新されるよ」

ただ遠くから眺めていた時も、偶然校舎ですれ違った日も、声を聞けた時も好きがどんどん膨らんでた。告白して、普通に会話して、一緒にお昼を食べて。仕草、声、佐久早くんの全部全部が好きになる。

「今日も嫌なのにお弁当食べてくれて感動したし。佐久早くんめっちゃ好き! ってなってるよ。だから、だからー、……私も更新してもらえるように頑張ります」

黒目がちな目を丸くして、次にはそれを細めて確かに佐久早くんは笑った。ほらまた私は好きなる。きっと昨日の佐久早くんを忘れても、また今日の、明日の佐久早くんを好きになるのだ。

えいえんのせつな

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -