ほんの少しだけ薄暗い北欧調の店内に備えつけられたソファやテーブルに腰かける者はなく、物言わぬ雑貨小物たちはただ定位置に収まっている。そんなあたたかく落ち着いてほっと寛げるような空間は、時間を気にせずゆっくりできる雰囲気が漂う。
 昼過ぎから降り続く雨は深夜まで続くのだと、おは朝のお天気お姉さんの予報は大的中。おかげで店に訪れる客足は遠のき、閉店時間の一時間も前に閉める始末だ。#ナマエ#は一つ溜息をこぼしながら、店の扉の看板をOPENからCLOSEへと変える為に玄関先へと向かう。そしてドアノブを回した瞬間、その扉が押してもないのに急に向こうに持っていかれてバランスを崩しそうになり咄嗟に手を離す。その向こうのドアノブを引っ張った相手も、見開いて驚いている様子だった。

「…びっくりした」
『それ、こっちの台詞なんですが…まぁ、いらっしゃい』
「……とりあえず、中入らせてもらっていいか?」

 閉じた傘を手に、降り続く雨に肩を濡らす青年に#ナマエ#は大きく頷いた。

『ああ、うん。ついでに看板クローズにしてもらっていい?』
「なんだ、閉めるのか」
『見てのとおりの現状ですからね。でも気にしないでいいよ、ゆっくりしていって』

 訪れた友人を快く中へと招き入れ、#ナマエ#は木目のブラインドを下ろす作業に取り掛かる。青年は彼女に言われた通り看板をクローズにすると黒傘を傘立てに立てかけ、特等席であるカウンターへと移動し上着を脱いで隣席の背凭れへと掛けた。#ナマエ#はキッチン側へと移動しながら彼へ『なに飲む?』と尋ねれば間髪入れずに「ホットコーヒー」と分かり切った返事が返ってくる。

『今日は早番?』お湯を沸かし準備の為に手を動かしながらも#ナマエ#は青年へと話しかける。
「ああ。そんで明日休み」
『良かったねー。あ、そういえば一昨日早川くん来たよ』
「本人から聞いた。お土産も貰ったしな」
『え。食べた?』
「まあ、食ったけど。…なんだその質問?」
『いや…ちょっと味に自信なかったから。どうだったかなーと思って』
「…ふつーに美味かったけど」
『けど?』
「…美味かった」
『なんかごめん。次はもっとマシなの作るから。お腹は減ってない?なんか口にする?』



 その店内には常連客で#ナマエ#の友人でもある青年のみが只一人、居座っていた。

『……やまないね』とぽつり呟きながら作業の為に手を動かす彼女に、カウンター席で読書に勤しんでいた青年が視線を上げる。
「…そうそう外れないだろ、おは朝の天気予報は」
『そうだね。…珈琲のおかわり、飲む?』
「じゃあ、貰う。今度はミルクと砂糖も頼む」
『了解』

 こぽぽぽ、と二つ並んだ大きめのマグカップに珈琲を注ぐと、#ナマエ#は彼の前に置かれた空っぽになったカップとそれを交換してミルクと砂糖を添えた。そして自分用に淹れた珈琲をその隣に置くと、キッチンからくるりと一周して彼の隣へと腰かけた。

「終わったのか?」
『一応。それで、中村くん。なんかあったの?』
「…、」

 閉店時間前に帰る彼が、時間を過ぎても残っている時は何かある時だと#ナマエ#は知っている。かれこれ五年の付き合いにはなるので、大概のことは把握できてしまっているのだ。だからだろう、中村も理解しているように苦笑いを浮かべて珈琲に口づけるのは。

「…頼みがあるんだ」
『うん?』


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