人通りの少ない路地にひっそり佇む、隠れ家めいた喫茶店・アザレア。芳醇なコーヒーの香りがたちこめる店内は、クラシカルな内装に北欧風のインテリアで温かみのある空間がつくられ、ほどよいジャズの音色がゆったりとした時間の流れをつくっていた。
 そのカウンターの内側にはいつも若い男女の姿があるが、今日は届いたばかりの珈琲豆を保存瓶に移す作業を行う少女の姿のみがあった。休日の昼間だというのに客の姿は珍しくどこにも見当たらない。

 ちりん、ちりん――。

 来客を告げるベルの音に、#ナマエ#の手が止まり視線は入口へと向けられた。

『いらっしゃい、祥吾』

 来客者への挨拶は意味をなさないことを知りつつも、#ナマエ#は彼に営業スマイルをむける。ジーパンのポケットに両手を突っ込んだまま、ずかずかと入ってきた長身の灰色の髪の少年はまっすぐと彼女の元にやってくると、ぼすっ、と何かが入っているビニール袋をカウンターへと置く。そして飲みかけの珈琲が入ったマグを手に取って口つける彼を諭すわけでもなく、#ナマエ#はビニール袋へと視線を向けた。『これは?』

「……てめぇにやる」
『日本語通じてないー…』

 苦笑を浮かべてがさりとビニール袋の中を覗けば、お高いチョコレート菓子が複数入っていたことに一瞬目を瞠る。そして少年と袋の中身を交互に見やれば、盛大な舌打ちをしてそっぽを向いた彼に#ナマエ#は声をたてて笑う。

『ありがとね、祥吾』
「うっせ」
『それ、今日届いたばっかのコロンビア産の豆なんだけど、どう? 美味しい? それともいつもの淹れる?』
「……新品だせや」
『よかった。じゃあ準備するからちょっと待っててね』

 威圧的な凶悪面の彼――灰崎祥吾の不遜な態度にも顔色一つ変えずに対応する少女、というのは傍から見たら異様な光景かもしれない。だが出会った当初の手の施しようもないクソガキだった。一年前までは素行は非常に悪く、髪型もコーンロウだった「THE 不良少年」は、人相はそう変わらないものの髪を短く切り揃え、言動は少し柔らかくなり暴力沙汰も控えるようになったのだから、あの頃に比べればずいぶんと大人しくなったものだと#ナマエ#は懐かしく思い忍び笑いを浮かべる。

『祥吾、今日ご飯食べていく?』
「………」
『お兄ちゃんがね、今日のご飯は唐揚げにしようかって言ってたんだけど』
「食ってく」





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