私がこの世界について知っていることは、二つ。


 
 ここが、私の住んでいた世界とは違う世界であるということ。
 そしてここは、私が良く知る漫画の世界であるということ。


 そのことに#ミョウジ##ナマエ#が気づいたのは、この世界に転生トリップというものをしてから実に十二年程の月日が流れてからだ。遅すぎるだろ自分!というツッコミを入れつつも既にこの世界に溶け込み馴染んでしまっていた為に、全てを思い出したときにはちょうど反抗期が差し迫る頃だったが、如何せん中身は成人を終えて大人の仲間入りを果たし社会に出ていた身なので狂気に陥ることもなく――もう一度学生生活やり直せるぜヒャッハー!と狂喜乱舞はしたが――その後色々なことに巻き込まれつつも#ナマエ#は楽しく生きていた。
 ただその二度目の人生の中の一度目の悲劇は中学二年の終わり――まだ肌寒さを残しながら春を迎えようとしていた時に、彼女の此方での両親が不慮の事故により他界したことだった。
 全てを思い出しても大切な家族に変わりなかった人達を失くした悲しみに暮れる日々はそう長くは続かず、すぐに叔父夫婦の元に引き取られることが決定し明るい叔父夫婦と気遣いのできる従兄弟に支えられ以前と変わりない日々を送るようになった。一つ変わったといえば叔父夫婦が両親に、従兄弟が兄に変わったことくらいだろう。
 中学を無事に卒業し、その後梟谷学園高校へと進学した#ナマエ#は男子バレーボール部のマネージャーとして過ごしている。兄の衛輔には「マネージャーやるなら音駒にくればよかったのに」といまでも散々いびられるが、「音駒も梟谷学園グループに含まれているんだから練習試合や合宿で嫌でも顔合わせられるでしょう」と窘めるのは毎度のことだ。

「#ナマエ#、部活遅れるぞ」
『ああ、ごめん京治くん。いま行く』

 クラスメイトの掛け声に#ナマエ#は慌ててエナメルのスポーツバッグを手にしてその背を追った。まさかあと数分後――とんだ巻き込まれ事故に遭うとも知らずに。
 かちゃり。と携帯のストラップが音を立てて揺れた。



「わっ!!…どうだ、驚いたか?」

 ああ、鶴丸。おはよう。

「ああ、おはよう。…じゃなくてだな、主…」

 大体お前の行動は読めてきているからねぇ。

「一応工夫は施しているんだがなあ…何がいけないのか」

 ――予め薬研と一期が教えてくれている、だなんて言ったらどんな顔するんだろうか…。

 さて、お鶴さん。今日は天気がいいから絶好の驚かせ日和じゃないですか。

「おっと、それもそうか。じゃあ今日も奴さん達を沢山驚かせてこようか」

 ふふっ。良い報告を期待しているよ。
 っと…今日の近侍は誰だったか……ああ、兼さんおはよう。ん?今日は兼さんが近侍の日?ごめんごめん、最近の近侍事情把握できてなくてね…。じゃあちょっと朝の散歩に行きますか。



 ……………――――――――。




 ぱちり。目を覚ましてそれが夢だったことに気づき、#ナマエ#はまた懐かしい光景だったなぁと目を細めて「あれ?」と違和感を覚える。
 先ほどまで、彼女は確かにクラスメイトの赤葦と梟谷学園の体育館を目前にしていたのだ。それが渡り廊下へ一歩を踏み出した瞬間、目の前の光景は、いや世界が暗転変わってしまった。視界いっぱいに広がるのは白い天井と丸いスポットライトのような照明で、明らかにここが室内であることが理解できる。

 ――……えっ、…なに、どゆこと、What have happened?

 混乱しつつもやけに落ち着いていられるのはいままでの経験上だろう。#ナマエ#はゆっくりと起き上がると

『…また巻き込まれ事故か』

 ぽつりと呟いたその言葉の重みはきっと私しか知らないだろうと#ナマエ#はそっと溜息をこぼしつつ、ゆっくりと起き上がりそして周囲をぐるりと見渡した。
 外にいたはずなのに、いまはどこかの建物の中――造りと雰囲気から感じるのは校舎、だろうか。フローリングの床とホワイトボード側にある上から降りているスクリーンからして、ここは視聴覚室だろう。窓側はすべてカーテンが引かれており、室内は眩しいくらいに電気が全て点けられている。

『一体全体今度は何だっていうんですかねぇ…』

 #ナマエ#は足元に落ちていた自身のエナメルのスポーツバッグの中身を確かめていると、ふいにガチャリという音が聞こえて思わず身構える。音の聞こえた方は唯一の出入口である扉で、ぐるりとドアノブが回ると扉が押されてそれは姿を現した。

「っ――!!」
「どうした黒子!って……ひ、と?」

 声にならない悲鳴を上げた少年の後ろから顔を出した少年もまた驚いたように目を見開く。#ナマエ#は何度か瞬きを繰り返したのち、恐る恐る室内に踏み入った少年達へと向き直ると口を開いた。

『えっと、ここどこですかっていうか、どちら様です…?』


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