そのただー | ナノ





※捏造


人間にはしがらみが多すぎる。ちなみに僕は正義だ。自分の名前と倫理観、それらに囚われている僕は十字架に磔られているのも同然だ。
息苦しくて、もうこの世になんか正義なんて必要ないのではないか。そう考えるようになったら、モデルの仕事が少し減った。
でもドラマやバラエティの出演は、エキストラから少し脇役に近づいた。
きっとこれが正しい道なんだ。新しい僕の正義なんだ。
しかし何かを忘れているような気がした。大切なものだったような気がするけれど、忘れてしまうのだから大したことがないんだろう。
マンションの扉を通ろうとしたら、見知らぬ人に腕を掴まれた。思わず身体が強張る。

「正義!」
「……誰、ですか」
「……っ!何にも、覚えていないのか」

苦しそうに顔を歪める男性が、僕の肩を握りしめた。彼の目に映る僕は酷く痩せていた。あれ、誰だろう。

「正義……俺だ、後藤だ。後藤英徳だ」
「ごとう…ひでのり…?」
「そうだ。お前を数ヶ月前に…不審者だと勘違いして、それから仲を……深めたんだ」
「でも…僕は知りません。それに明日はドラマの撮影があるから…もう帰ってください」
「断った」

は?、と間抜けな声が口から出た。後藤は言葉を続けた。羽佐間の体調が悪いみたいだから、2週間ほど休みを入れさせてもらえないかと頼み込んだ。
ここ最近は毎日仕事を入れていたから、まとまった休みが貰えた。
後藤の言葉は右から左へと通り抜けていく。頭を占めるのは、目の前にいるお節介な男だ。

「勝手なことをしないでください!」
「っ!俺はお前を思って、」
「やめてください!貴方の正義を押し付けないでください!」
「……そうかよ、悪かったな。でもよお前、めちゃくちゃ顔色が悪いぞ」
「……、貴方には関係な…っ!?」
「正義っ!?」

くるりと世界が反転した。後藤が心配そうに僕を抱えて顔を覗く。大丈夫だと唇を動かすが、声にならない。
恐らく貧血、か。またマネージャーに怒られるなあと思いながら目を閉じた。



変な夢を見ていた。自分が仮面ライダーのようなスーツを着て、素行の悪い中学生や酔っ払いに注意する夢。
あまりにもリアルすぎて、目覚めた後も頭がぼんやりしてて働かない。あれは僕の記憶なのだろうか…。
そして意識が無くなる前に聞いた、後藤の話は本当なのか。
視線を下に落としたら、彼が僕の白い手を優しく握りしめて眠っていた。
きっと僕は……温かい、誰かの手の平に僕は恋い焦がれていたんだ。

「ごめんなさい…」

その言葉は誰にも届かずに、部屋の中で霧散した。

生温い涙を一つ落とした

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テーマ「人外ファンタジー」
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