愛凛 (1/2)
じくりと痛む

 松岡凛という先輩には、尊敬の念を抱いている。小学生のときに見たあの素晴らしいリレー、タイムを縮めるために努力を惜しまぬ姿勢。
 どちらの“松岡凛”を僕はとても好意を抱いていた。しかしながら同室者である自分ですら知り得なかった“松岡凛”がいたのだ。

「っ、ふッ…んんっ……!ハ、ルぅ……」
「……………………」

 速攻で実家に帰りたい。こんなにもホームシックに陥ったことがない。
 どうして松岡先輩はライバル視している七瀬遙さんを、あんな風に甘ったるい掠れた声で呼ぶのか。
 分からない、わけがわからない!僕は非常に困惑した。そっと扉を数センチほど開けて覗き込んで見たら、二段ベッドの下で横になった松岡先輩がいた。
 これは確実に……処理をしていらっしゃる。そして僕の存在を忘れている。
 その考えに達したとき、何か言い様のない抽象的な怒りが沸々と芽生えてきた。
 どうして同室の僕の配慮を忘れているんですか!松岡先輩のどじっ子!
 そう心の中で罵倒しながら、勢い良く扉を開けた。

「松岡せんぱーい!!」
「っ!?に、似鳥…?」
「ただいま帰りました!先輩は何をされていたんですか?」

 聞かなくてもわかっているけど、わざとらしく聞いてみる。すると狙ったように松岡先輩の顔と耳が赤くなった。

「……寝てた」
「そうですか」
「ていうか、お前顔が近い!離れろ」
「やです」
「あ?」

 ぎろりと睨んでくるけど、所詮上目遣いにしか見えない。僕は薄く笑って、先輩の耳元で囁いた。

「本当は、オナニーしてたんですよね?」
「っ、はあ!?ば、ばっかじゃねえの!?」
「だってほら、ここら辺すごく青臭いですよ?」
「……っ!」
「それに……松岡先輩のここ、元気ですし」

 不自然に膨らんだそこをやんわりと撫でれば、松岡先輩の肩が大袈裟に跳ね上がった。

「や、めろ似鳥……ひぅっ!」
「ふふ、松岡先輩、きもちいですか…?」
「よくない……っ、似鳥…?」
「なんですか?よくないとおっしゃったので、離してあげましたよ」

 物欲しそうに見上げる松岡先輩、可愛いな。きゅっと下唇を噛んで俯いてしまった。
 その間も手持ちぶさただから、項のところをゆっくりと撫でたり、肩のラインをなぞった。
 散々焦らした結果、松岡先輩は我慢できずに「似鳥……っ!」と僕の着ていたジャージの袖を握りしめた。
「どうしましたか?」
「も、無理…。触って……っ!」
「えっと……具体的には?」
「はあ!?」
「あ、わかりました。胸の突起でしたか」
「や、んん、ちがっ…、ひっああ、にとりぃ……っ!」

 ふるふると力無く首を横に振る先輩、いじめたくなる。ああもう、もっともっと色んな先輩が欲しい。
 僕の掌に落ちてくればいいのに。
 痛む胸を無視して僕は先輩に手を伸ばした。

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